私が頷くと、結衣がクスクス笑い始めた。


「何がおかしいの」

「だって、よく考えてみてよ。 

ちょっと変な人じゃない」

「だから、今こうやって話してるんでしょ? 

ちょっと変わった人がいるって」


私はテーブルに置いておいたコーヒを手に取り、ゆっくりすすった。

いつもはフラペチーノにするのだが、十度もない気温の中ではさすがに無理だ。

ただ、熱い飲み物が苦手で、いつもどこかを火傷してしまう。

極度の猫舌なのは、結構恥ずかしい。


「好きなんだ、その人のこと」


危うく、飲みかけのコーヒーを吹き出しそうになった。


「何言ってんの!?」


結衣がクスクス笑い続けている。

私は少し洋服にかかったコーヒーをナプキンでふき取りながら結衣を睨んだ。


「やだなぁ、怖い顔しないでよ。 

だって、かなり変な人だと思ったら、普通は近づかないじゃない。 

でも、毎日会いに行ってるんでしょう?」

「会いに行ってるんじゃないって!! 

私のお気に入りの場所に、あの人がいるの!!」

「じゃ、もう話しかけないでくださいって言えば?」


私は黙ってしまった。

確かに結衣の言う通りで、内心はあの人がいないと少しがっかりする。

店の中に入るとき、あの人は来ているだろうかと少し期待をする自分にも気づいている。

これが、恋ってやつなのだろうか。


「やっぱり!! 

いいなぁ、イケメンに話しかけてもらえてさぁ。 

今度、思い切って告っちゃえば?」

「えっ!?」

「いいじゃない、イケメン彼氏!! 

ついに薫にも春が来たんだね」

「いやぁ……」


一人盛り上がる結衣を尻目に、私は思わず俯いてしまった。