この状況をどうしようかと考えていれば、美輝がストンっと隣に座った。

「おねぇちゃん…そのお父さんに、愛されてるんだね…」

そうなぜか悲しそうに言った。
それにすかさず反論したのは、なぜか煉夜だった。
但し間違った方にではあったが…。

「愛なんてもんじゃないっ。
あれはもう、溺愛だっ。
可愛くて仕方がないんだっ。
今の月陰はな、結を落とせば陥落させたも同じだ」

何を言ってるんだ…。

「でも、父さんに聞きましたけど、月陰会は、二つの部門に分かれてるんですよね?
トップが揺らいだくらいじゃぁ、大丈夫でしょう?」

雪仁が、不思議そうに訊ねた。
それに同意するように明人も首を傾げる。

「そうだよね?
サジェス様と……君のお祖父さんかな?
御影さんだよね。
会った事ないけど、その二人も遣り手だって噂だからね」

表舞台に立っても、正体を隠すのが好きな二人は、噂だけが一人歩きをしている状態だ。
確かに、やれば出来る人達だ。
だが、そのやる気が、いつ出るか分からない人達だから、月陰ではあまり遣り手と言うイメージはない。
一度やる気になれば、それはもう鮮やかに采配を振るう……らしい。

「サジェス様もマリュヒャ様と変わらん。
結を引き取りたくて仕方がなかった人だからな」
「え?」
「御影さん…それは…どう言う事でしょうか?」

美輝が目を丸くし、母が恐る恐る煉夜に問いかける。
その手は、未だ私の手を取ったままだ。

「結の親になりたかったやつは結構いるからな。
まぁ、サジェス様は、近いうちに結を義理だが、娘に出来ると言うので、大人しく諦めたようだが…」
「義理の娘…?」

何でも良いから、そろそろ私を囲んで話すのを止めてくれる?

「あっ、そのサジェス?様って、佐紀さんのお父さんなんですか?」

美輝が、思い出したように煉夜に聞いた。

「そうだ。
正式なお披露目はまだだが、婚約が成立したからな」
「っ?!婚約!?」

母は物凄く驚いたようだ。

「佐紀…まさか瀬能くん!?」

同じ様に驚いた人がもう一人いた。
何だかんだと私を置き去りにして、テンションが上がっていく皆に、溜め息をついた。

身内が拐われてるんだけどな…。

その時、声が響いた。

《主よ…》
「???何?
今何か聞こえた?」

美輝が頭をキョロキョロと動かし、相手を探す様を見て、少し微笑み、声の主に呼び掛ける。

「どうだった?」

その問い掛けに、何もない空間から現れたのは、白い大きな虎。

「っわぁっ!?」

明人だけが声を上げた。
あとは、煉夜以外、大口を開けて固まっていた。
それに構わず、虎…雷光に話を促す。

《船の中にある一室に、他八名の男女と共に寝かされていた。
命に別状はない》
「そう…」

どのみち、他にも捕まっている人がいるなら、すぐに行動するのは危険だ。
あの招待状を使うのが、一番安全だろう。

「ねぇ、おねぇちゃん……」
「っ結ちゃん…」

美輝と雪仁が、キラキラとした目で訴えてくる。
それを正確に理解して、雷光に目を向ける。
雷光も察したようだ。
若干項垂れた。

「…良いってさ。
ただ、律以外あまり馴れて……」
「っふさふさだぁ〜っ」
「きれいだなぁ〜っ」

『良いって…』の部分しか聞いてなかったようだ。
二人とも遠慮なくワサワサと撫で回して、ご満悦だ。

「っ俺もっ触らせてくださいっ」
《うっ…うむ…》

そして、いつの間にか母や明人までもが触りだし、雷光が揉みくちゃにされていた。
隙間から、必死に耐えている様な顔の雷光に、もう少し我慢しろっと同情しながらも目で語っておいた。