ゆっくりと、結華が女性に近付いていく。

「っ…貴女っ…まさか…っ精霊使いっ!?」
「連れていった闇族を返してもらう。
いい加減、土地神に煩わされたくないんだ」

立ち上がる事もできずに震えていれば、御影さんが美輝達を引っ張ってこちらへ下がってきた。

「シャルルもこっちに来い。
全員、ここよりもう少し下がれ。
結のやつ、けっこうキレてるからな。
巻き添えを食らわんようにせんと…」
「…どうして分かるの…?」

なぜ怒っていると分かるのだろう?
話し方も、そんなに変わらないように感じるのに。

「あいつは、怒っているように見えない時が一番危ないんだ。
まぁ、結界を張ったとは言え、住宅街。
無茶はせんと思うが…」

その時、結華の体が微かに光を帯ているように見えた。

「不味いな…」

何が?!

「《バルナスっ》」

結華の放ったその言葉で、雷のような光の柱が、女性の足下に幾つも突き刺さった。
それに伴い、轟音と震動が響いた。

「っ……ッ」

思わず耳を押さえ、目を閉じた。
明人さんが私を抱き込むのを感じる。
目を開けると、女性は、ふらふらと数歩後ずさっていた。
肩で息をして、辛そうだ。
けれど、次には片方の口角を上げて、艶やかに笑った。

「ふっ…ふははっ。
この状態じゃぁ、勝ち目はなさそう…。
でも、まだまだ甘いわね…」

そう言って片手を優雅に少し挙げると、その手を取って、晴海が現れた。

「っなっ…」

結華も想定外だったのだろう。
部屋に緊張が走った。

「ふふっ、彼は完璧に私の支配下にあるの。
これくらいの結界じゃぁ、阻めないわ」

晴海は、虚ろな目をしている。
長く食事もろくに食べていない為、頬もこけ、ひどく痩せてしまった。

「形勢逆転ね。
でも、私の方はもう限界だわ…。
今回はこれで失礼するわね。
あぁそうそう、せっかくだから、明日のパーティーにあなた達を招待するわ。
彼には先に行ってもらいましょう」

すっと女性が手を晴海に翳すと、晴海が光に包まれて、忽然と消えた。

「これで良いわ…。
面白い余興を用意してあるから、是非楽しんできて。
これが招待券よ。
行かないと……分かってると思うけど、晴海くんの命はないわ。
それじゃぁ、ごきげんよう…」

そうしてふっと女性が消えた。
いつの間にか、チケットが机の上に置かれていた。
結華は、しばらく女性が消えた場所をじっと見つめていた。