「晴海の事は心配いらないんだね?」

明人が確認するように訊ねた。
それに、机の上に置かれたチケットを指して答える。

「はい。
このパーティー会場に連れて行かれたようなので、明日のパーティーまで、無事だと思います。
守りも万全です。
他にも同じ場所に連れてこられた人達が居るようですし、あの口振りなら、余興ででも使う気なのでしょう」
「余興か…。
悪趣味だな」

煉夜の呟きにコクリと頷くと、刹那が心配そうに口を開く。

「結…行くのか?」
「うん。
大丈夫。
さっきのが出てこないなら、普段の仕事と変わらないし、件の組織がまとまって出てくるなら、こっちとしても手間が省ける…っ?」

その時、ケイタイに着信が入った。

「ごめん…ちょっと…っ」
「情報部か?」
「いや、与一だ」
「「与一さん!?」」

刹那と美輝が、おそらく理由は異なるが、驚きの声をあげた。
それを無視して、部屋の隅へ立ち、通話ボタンを押した。

「珍しいね。
そっちからかけてくるなんて」
『っふん、本当は嫌なんだが…お前には報告をと思ってな…。
例の薬の件だが、取り調べの結果、ある組織との繋がりが浮かんできた。
その件で、明日、その組織が集まるパーティーに潜入することになった』
「それって、船の?
”エンジェル号”?」

あららと思いながら、チケットにあった船の名前を出す。

『っ何で知ってんだ!?
月陰の方にはまだ報告してないぞ!?』
「意外と優秀だったんだね。
それで?
与一も出るの?」
『ああ…立ち合いみたいなもんだ。
多分そっちからも一人二人出してもらうかもな』
「そうなるね。
私と……佐紀が行くよ。
ちょっと無関係じゃいられなくなっちゃったから」
『…何だ?そりゃあ?』
「ふふっ、夜までに情報をまとめて送るよ。
楽しみに待ってて」
『………嫌な予感しかしねぇよ……。
まぁ良い、こっちも本部に報告書を上げとく。
じゃぁなっ』

最後は勢いよく電話を切られたが、笑みが浮かぶのは仕方がない。

「嬉しそうだな」
「うん。
あのツンデレ具合が堪んないよね。
警察なんて辞めれば良いのに」
「それでこっちに引き込む訳か?
そりゃぁ…おもしろいっ。
協力しようっ」
「っ待ったっ、それって与一さんの話!?
それは勘弁してやってっ」

与一がいれば、楽しいのに…。
その上、かなり優秀だ。
あんな優良物件、他にないよっ。

「…うん、結が考えてること…何となくわかる。
分かるんだけどっ…止めてやってくれっ」

何だ?
美輝までがカクカクと頷いている。

「仕方ない……今度直接口説こう…」
「えっ…いやっ……うん……せめてそうして……」

まぁ良いさ。
与一一人、いつでもどうにかできる。

そう自分を納得させ、チケットを手に取った。
枚数は、八枚。
ここに居る全員分だ。

「僕も行くよっ」

この件は、任せてくれと言おうとしたら、明人さんに先手を取られた。

「勿論、私も行くわ。
知り合いも居ると思うし……私みたいに変な術…?を掛けられてるかもしれないものっ。
私の蒔いた種だわっ。
私が行くのは当然だと思うのっ」

母が決意の眼差しを向ける。
それに便乗するように、美輝、夏樹、雪仁が賛同し、ついて行く事を宣言した。

「晴海が人質にされたんだ。
当然、俺も行く」
《いざとなったら、わたしも居るものっ。
紅の姫の役に立てるように頑張るわっ》

一致団結した彼らは、完全に戦いに赴く目をしていた。