『“女”って呼ぶのだけはやめてよね!』
怒っているけど 全然怒っているように見えない綾――
むしろ かわいくみえてしまう
「ははは!全く怖くねえーっ!」
拓斗は 腹を抱えて笑っていた…
――――トクン…
綾は 彼の笑顔から目が離せなくなってしまった
拓斗の笑顔は 綾にとって非常に懐かしいもので 胸に微かな温度を感じた
温かい温度が――
「…なにボーっとしてんだよ」
『――ぇ…?あ、いや…』
「あっそ」
拓斗はそのまま ゆっくりと歩き出す
しかし綾は 立ち尽くしたままだった――
数メートル離れたころで 拓斗はゆっくり振り返った
「おいてくぞ!――綾」
風が舞う――
大地が揺れる――
照れくさそうに綾の名前を呼ぶ拓斗の顔が 今でも忘れられない
頬全体を真っ赤に染めて 少し不機嫌そうな顔をしていた
でも “綾”と呼ぶ感じが 新一とそっくりだったんだ
――そっくりだったんだ