『別れて』
「え…?」
卒業式も終わり 卒業生が退場しているときに伝えた
“何を言っているかわからない”と言う目をしている新一
綾も 唇を噛み締めて伝えた
「なんでだよ…」
『好きな人が出来たから…。ごめんなさい』
誰に好きな人が出来たって?
そんなの――嘘に決まっているじゃん…
そう思いながら 新一に深く頭を下げた
込み上げる感情を抑えきれないかもしれなかったから 手っ取り早く彼の前から姿を消したかった
「…」
『じゃあ…、私はこれで…』
大好きな人なのに私は自分から手放したんだ
いや このときの綾には この考えしか浮かばなかったんだ
遠ざかって行く 綾と新一の距離
「綾!」
耳から伝わる 新一の低い声
彼の声が 耳に張り付くように残っている
――今でも
「俺はおまえといて…幸せだったからな!」
頬を伝って行く 1粒の雫
『そんなこと…言わないでよ……』
風とすれ違いながら 小さい声で本音をこぼしてしまった
やっと決意が出来たのに 新一の1言で こんなに折れてしまうんだ…――
綾は 溢れる涙を腕で力いっぱい拭った
そのとき――
視界に入ったのは 左腕の大きなアザ――
『…これがなければ……』
2週間前にケガした時に作ったアザが 今後の綾を苦しめるものとなる
『何で私なの…?』
綾は 空に向かって問いかけてみた――