『さ、さっきは…ありがと』
授業が終わった後 後ろの席の人に小声でお礼を言った
彼の鋭い瞳が 綾に刺さる
髪の毛を逆立っていて 見た目は 怖い人に見える――
「お前さー、嫌なことは“嫌だ”って言えよ」
『――…』
あまりの言葉に 黙りこんでしまった
「言いたいこと言えなきゃ、自分が損するから」
そう言葉を残して 彼は教室をあとにした
綾の中で沈黙が走る
『――わかってるよ…』
理解はしている
だけど 行動に移せない自分が 非常に歯がゆかった――
今までにも 胸の内を話せないことが多々あった
新一のことだって…――
『もっと…、優しく言ってくれたって…いいじゃん……』
綾は瞳から毀れそうになる涙を 力いっぱい拭った
――少しだけ…
――少しだけでいいから
――強くなれる…力がほしい