「では、一曲目に参りましょう。先月発売した笹木里菜のファーストシングルで“その手を探して”どうぞっ!」
笹木里菜がそう言うと曲が流れ始めた。
そして、マイクの電源を切った。
「久しぶりね、咲夜」
里菜さんがニッコリと咲夜に笑う。
「あぁ、別れてから会ってなかったからな」
いつも五月蝿い咲夜が静かな声でそう言った。
「そうね、天空君も。色々迷惑掛けてすみませんね」
そう言う。
はあ?
すみませんね?
「…よくそんなこと言えるね」
俺はボソッと言った。
そしたら、咲夜が席を立った。
「トイレ、曲が終わるまでには戻るから」
そう言って出て行ってしまった。
「咲夜、あれから元気にしてた?」
俺に向かってそう言う里菜さん。
「えぇ。元気でしたよ」
俺は表情を変えずに言う。
そしたら、
「なんだ、そう」
落ち込んでいるように見える里菜さん。
あんだけ咲夜に酷いことしてて、よくそんなことが言えたよな。
「つか、お前には関係ないね」
俺は奴に言ってやった。
その時、
ガタンっ
ドアが閉まる音が聞こえた。
俺はふと聞こえた方を見た。
……。
どうやら出て行ったのはマネジャーらしい。
何する気なんだ?
俺はマネジャーが気になって部屋から出て、追いかけて行った。
そして俺も咲夜の事が気になったから追いかけたんだ。
そしてマネジャーと咲夜の話を盗み聞きしていた訳。
俺さ、そん時またマネジャーを惚れ直したよ。
まぁ、これは俺の口からは言えないけどね。
ーside咲夜ー
俺はラジオ収録の部屋から出て、外へ向かって歩いていた。
ずっとあいつが好きだった。
こんなに人を好きになったのは初めてだった。
『別れよう』
そう言われて家に帰った日どんなに泣いたか分からない。
そんだけ彼女が好きだった。
あれから彼女に逢うことを避けていたのに、今日のラジオ収録。
ダメだ。
やっぱりまだ彼女を見ると切なくなる。
好きとかそう言う感情は押さえていたはずなのに。
溢れ出してくる。
どうしてこうなった?
どうして俺はあいつの手を離してしまったんだ?
抑えてた気持ちが溢れ出す。
あの日が昨日の事のように鮮明に蘇る。
もう、1年が経つのに。
あの日――――――……………
「違うの!これは違うの!」
彼女は俺の手を掴み、崩れるように体が床へと落ちていく。
「じゃぁ、なんでだよ!なんで、この前も一緒にいたんだよっ!?なんで、なんで、キスしてんだよ!!!!」
俺は彼女の手を振り払いながら大きな声で叫んだ。
彼女は涙を溜めながら俺を見た。
「…咲夜も結局はそうなんだね。あたしを信じてくれないんだね」
彼女は俺を睨みだから絶望した顔をしている。
「はっ?」
なんだよ、それ。
俺が何をしたって言うんだ?
俺がぽかんとしていると里菜は言葉を続けた。
「あたし、ただ愛が欲しかっただけなのに。好きになって欲しかっただけなのに。男と仲良くすると、彼氏は必ずあたしを見捨てた。まるであたしが悪いみたいに」
こいつは何が言いたいんだよ。
「お前……」
「咲夜、あの言葉は嘘だったんだね」
彼女は俺を睨みだから部屋から出ていってしまった。
あの言葉、それは
『俺がお前を一人にしない』
そう、この言葉だ。