冷えきった体を竦ませて店に戻ると、リコはCCをロックで半分ぐらいまで飲んでいた。


「れーん!れんものみな!グラス持ってきて!」


控えていた山寺に言いつける。


リコはこのボトルが空いたらまた別のボトルを入れるだろうから、早いとこ空にしちまうか。

言われるがままリコの酒を次々に煽った。


閉店までいたリコも、流石に一人では立ち上がれないらしくてタクシーに相乗りして帰る事にした。



リコのアパートは知っている。


そのアパートの住所を運転手に告げて、静かな深夜の街を眺めていた。


胸に浮かぶのは、菜月に対しての不満ばかりだ。


なんで電話も寄越さねぇ?それだけお前にとっちゃ、俺はどうでもいい存在だったのかよ!?




悔しさとやるせなさが綯い混ざってドロドロした沼に嵌まりこんでしまったようだ。


「……お客さん、着きましたよ」


ハッと我に返ってリコを起こした。


リコの意識は大分しっかりしてたようだが、まだ足下が覚束ない。


逆に俺に撓垂れかかってきた。


「車から降りろよ?」

「……やだ。蓮の久しぶりに部屋に行きたい。今日はアタシお客さんなんだから、ワガママ聞いてよ……」


そう言って、不意に唇に触れた感覚。

せっかちに腔内を侵食してくる舌は、意思を持って俺の理性を掻き乱した。


「……俺、本気にはならねぇよ?」

それでも良いのか?

「分かってるよ。アタシだってそうだもん。本気の相手が蓮とかマジ勘弁」



リコなら後腐れがないって分かってる。


今夜、一晩だけ……。







俺のマンションに戻るのも久しぶりだ。



あれからあいつらがどうなってるのかは、知りもしない。


シャワーも浴びず、俺とリコはベッドの上でお互いを貪り合った。



そこに感情なんか、ない。



………いや、違う。



心が焼けつくように痛い。


空っぽの鍋を火に掛けているように、心が熱くなって火傷しそうだ。



こんなに痛みを伴うセックス、したくない。



行為が終わると急に胃がムカついてきて、トイレに駆け込み胃の中の物を全部吐いた。



リコは知らずに疲れてベッドの上で眠っている。



到底眠れそうにない俺は、トイレから居間に戻ろうと玄関を通り過ぎた。



玄関の下駄箱の上。



キラリと光る、見覚えのある物。



俺とリコが帰って来た時には、ここには無かった。



付き合い始めた頃、菜月にあげた合鍵とキーケース。



―――今、菜月がここに来てた……?