音匣マリア

「瀬名さん…真優のお父さんには何回も会ったことはあるよ。何て言うのかな……。瀬名さんは全国的に有名な人だから、ある意味プライドが高い人…なんだ」

「プライド……ですか？」


私も何回かは瀬名さんに会ったけど、そんな風には見えなかったのに……？


「君はどうして瀬名さんを知ってるの？」

「お店に何回か行ったことがあります。この前は真優さんもいましたけど」


……蓮が瀬名さんの店舗の一つを任されているって、山影さんには教えない方がいいよね？


だってまだ、山影さんの話の全部を信用した訳じゃないもん。


「君が客として瀬名さんに会ってるなら、性格は分からないんじゃないかな？あの人は全てに於いて自信を持っている人だから。はっきり言えば、他人の仕事を見下す癖がある。それを真優は親から学んだんだ。……瀬名さんからね」


山影さんが言う言葉には、確かに心当たりはある。


最初に会ったときも、真優さんは私の事を見下していたから。


「瀬名さんは『無駄な事』を何より嫌うんだ。つまり、自分のやり方が一番最適だと信じて疑わない。それを真優も受け継いだ。そして真優は、親の前の態度と男の前の態度、それに同性の前での態度が全部違う。上手く誤魔化してると思い上がってるみたいだけど……」



「山影さんが言いたいことは分かりました。でも、私達にどうしろって言うんですか？それに、山影さんと真優さんはこれからどうするんですか？」


今山影さんに聞かされた話を、蓮に話すことはできない。


蓮が瀬名さんに憧れてバーテンになったのは知ってる。

それに、蓮はヨッシーの店には売り上げで負けたくないって言ってた。多分、いつかはヨッシーのお店より自分のお店を大きくしたいという夢がある。


それには瀬名さんの協力は絶対に必要だろう。


なにより、瀬名さんに憧れてる蓮に、瀬名さんの悪口は言えないよ……。

瀬名さんにしても、自分の娘がそんな裏表がある性格だなんて、私の口から言えるわけ、ないじゃん……。



「真優は、狙った男のとの間に邪魔になる女の子には、とことん嫌がらせをしてくるはずだから。君も気をつけて。それしか助言できなくてごめん。あと、俺達だけど、俺は真優の本性を知ってる唯一の人間だから、真優は俺からは離れないよ」


……恋愛って、そんなに哀しいものなの？


そこまで我慢しなきゃいけないものなの？

どうして山影さんは、そこまでして真優さんとは離れないの？


浮気されてまで。


相手を殴ってまで。


私だったら……そんな恋愛からは、逃げ出すと思う。