朝になっても不安な気持ちは拭えなかった。


あの女が、菜月に何かしでかしてるんじゃないかと、そればかりを考えてなかなか寝付けなかった明け方の4時。


やっぱり自分もマンションに戻ろうかとも考えたが、もしあの女がいたらまた厄介事に巻き込まれそうで憂鬱になってくる。


そうしている内に、仕事の疲れからか段々瞼が重くなって、やがていつしか眠っていた。



起きたのは出勤時刻をとうに過ぎてからだ。やべぇ、寝過ごした。


急いで身形を整えて、車を店の方へと突っ走らせる。


車を走らせながら、店にいる山寺には遅くなる旨電話をかけた。


出勤途中の道端にあるコーヒーショップで何か食おうとそこに立ち寄った。どうせ遅刻なんだし、今更30分ぐらい遅れたところでどうってことねーだろ。



そこに入り、注文したものを受け取って席を探して店内を見渡す。


そして、見つけた。



山影とかいう奴と、向かい合って座る―――菜月の姿を。



………どういう事なんだよ!?


なんで菜月があいつと二人でいるんだよ!?



俺はあの女には近寄らないようにしてんのに、なんで菜月は無防備にあいつと二人きりになってんだ!?


あいつと会うならなんでその場で俺に連絡しねぇんだよ。納得できねーだろ。


内心の嵐はその後も俺を蝕み続け、吹き止むことはなくて。



その後は自分の店にいつ出勤してたのかも碌に覚えていない。


ただ、何か言いたげに店に入ってきた菜月に、無性に腹が立った。


「仕事、こんなに遅かったんだ?」

「あ…うん、ごめんね。ちょっと仕事が遅くなって……」

歯切れが悪い菜月の態度に、益々苛立ってくる。


「仕事じゃねーだろ。なんで俺に隠れて山影と会ってんだよ!?」


抑えようと自制していたのに、菜月を前にしたらそれが利かなくて怒鳴ってしまった。


怯えたような、菜月の目。


「ごめん、蓮、聞いて?あの……」

「……もういい。帰れよ」


菜月は何かを話そうとしたが、意固地になってしまった俺はそれを突っぱねた。


菜月は悲しそうに目を伏せて、店から出ていった。



この時菜月を追いかけて、「もういいから。事情を話せよ」と言えたら良かったのに。



意地を張って素直になれなかった自分に、つくづく後悔する事になるなんて、な……。