深夜も遅くになってようやく客も疎らになってきた頃、暇をみつけて菜月に再び電話をかけた。


あれ、俺ってこんなに女々しいことするキャラじゃなかったのに。


菜月に1日逢えないだけでも欲求不満が爆発しそうだ。

菜月はまだ起きていて、録画したドラマを観ながらストレッチなどしていたらしい。


「明日からまた店の方に来いよ」

菜月の声を聞いたら、我慢が利かなくてつい本音を出してしまう。

『……んー……。そうだよねー、まさか蓮の実家に毎日行けるはずもないしね』

「瀬名さんもなぁ。なんであんな娘に育てたもんだか。恩師だけどやりきれねぇな」

『でも、瀬名さんのお願いだからしょうがないんだよね……』


なんであんな女に菜月との仲を邪魔されなきゃなんねぇんだよ。


「菜月なら俺の家に来ても大丈夫だし。店でも実家でも好きな時に来いよ?」

『蓮に逢えなきゃ意味ないし……』


そりゃそうだよな。俺だって菜月に逢えないなら毎日が味気ねぇもん。


『あっ、そう言えば私、蓮の部屋に忘れ物してたんだった!仕事で使うやつ!明日中に取りに行かないと……』

「はあ?止めとけよ。またあいつらに鉢合わせすんの、嫌だろ?」


忘れ物って何をだよ。大事なもんじゃないなら後でにしろよ。


『それがね、式をキャンセルしたお客さんの見積書なんだけど、急に使うことになっちゃったの。ずっと前に仕事帰りに蓮の部屋に行った時、そのまま忘れて来ちゃって……』

なんで見積書なんて大事なもん忘れていくんだよ、全く……。


『明日の朝一で取りに行くけど、いい?』

良いも何もそれが無いと仕事になんねーだろ。しょうがないやつ。


「俺はいないけど、大丈夫か?」


隣の部屋の奴等には関わりたくないけど、菜月が一人であの部屋に行くのも心配だ。


『うん、見積書さえ持って来れれば、後は…。真優さん達には会わないように気をつける』


あいつらに何かされたらすぐに言えよ、と釘を刺して電話を切った。


………何事も無ければいいけどな………。