辟易してその女を引き剥がした。


俺は無言で菜月の横に座る。菜月の膝と触れ合ってる足がざわざわしてて落ち着かない。


「理由は?何か理由でもあるんじゃないの?彼氏なんだろ?」

「知らなぁい。マユ、なんにも悪いことしてないもん。あんなヤツ彼氏じゃないよぉ!」


女は自分では可愛いと思っての仕草だろうが、目を伏せてぺたんと座って肩を竦めた。


しかも座ったの、俺の隣。しかもまた体を密着させて。


この女、どういう神経してんだよ!?



確かに理由がなくてもイラっとくる。空気が読めないところもそうだが、あまりにも無神経だ、この女。


「ねぇ、それより名前は何て言うの?あたしはマユ。アナタの名前、知りたいなぁ」


菜月の事を眼中にすら入れず、その女…マユは俺だけに向かって聞いてきた。


「悪いけど、俺らはアンタ達に関わる気もないし、アンタに名前を教える気もない」


仁辺もなく言い放つ。


第一、DVの原因がそれって嘘だろ?この女がまるで出鱈目を言ってるのはすぐその言動で分かる。 俺もそこまで馬鹿じゃねぇよ。


「えー!やだ、名前ぐらい教えてくれたって良くない?ねぇ!この人の名前、何て言うの!?アンタ知ってんでしょ!?」


菜月に対しては俺に対する態度とはまるで違う。

菜月にはまるで害虫を見るかのような視線で、切り口上の台詞を叩きつける。


……確かに、殴りたくもなるな。まぁ我慢はするけど。



「……教えなくて良いぞ」


菜月に向かって念を押した。


菜月はこくりと頷いてそれに従う。


「それから、山影って奴との本当の関係とどうして奴が毎日ブチキレてんのか言わないんなら、申し訳ないけどさっさと帰ってくんない?」


冷たい言い種だが、もうこの女を部屋から放り出したくて仕方なかった。どうでも良い、こんな女。


「……分かったよ。本当の事言うとね、アイツ一応カレシなんだけど、すんごい束縛するの。あたしが他のオトコと話しただけでも殴るようなヤツなんだよね」

「なら黙って別れりゃいいだろ?」


バカらしい。


「て言うかぁ、このマンションに部屋を借りる時に保証人になったのがうちのパパなんだけどぉ。で、部屋を借りる時の敷金とか礼金は、みんなアイツが出したのね」


「……離れらんねーんなら仲良くすりゃ良いだろ。でなければさっさと別れて別居すれば?」


そうすりゃ万事納まるだろうが。


「……だって、同居のためにパパから貰ったお金、全部使っちゃったんだもん。だから、あの部屋に住むしかないの、あたし」

「は?お前、父親から同居のために金貰っといてそれ全部使ったの?しかも彼氏に金は全部出させて?」

「うん。パパはそれ知らない」



菜月も俺も、最早呆れてしまって開いた口が塞がらなかった。




………馬鹿じゃね?