「マユ!!お前ふざけんなよ!!」

案の定、それに続いて男の方もうちに怒鳴りこんで来た。


……もういい加減に勘弁してくれよ……。


大体お前ら、いつもなら夜に留守だったじゃないのかよ……。




この状況をどうしようか悩んだが、また煩く煩わされるのも面倒臭かったので、男の方は帰らせようと試みた。


「アンタらさ、悪いけどいつもいつも近所迷惑なんだよ。毎日毎日よくまぁ飽きもせず喧嘩してさ。音も声もうちにも筒抜けだっつーの。今日は俺の彼女も部屋に来てるから、一晩アンタのカノジョを預かるわ。明日の朝にでも迎えに来りゃいいだろ」


こんな事すんのも嫌だけど、一晩中喧嘩されても敵わない。


朝になったらこの男も冷静になってるかも知んねーし。

「……すみません……。俺…僕は山影佑(やまかげ たすく)って言います。明日の朝、マユを迎えに来ますから、すみませんがそれまで宜しくお願いします……」


山影と名乗ったその男は律儀に頭を下げて、部屋に戻っていった。


見た感じは大学生っぽい。穏和そうな顔、体の線は細くて暴力を振るうようには到底見えない。


誰もいなくなったドアに向かい大きく溜め息をつくと、菜月と女がいる居間に向かう。



女の方はと見てみれば、取り乱しているでもなく泣き喚いているわけでもなく。


菜月に持ってこさせたのか、ビールの空き缶を灰皿替わりにタバコを吹かしていた。そりゃあもうふてぶてしいほど堂々と。



………何だ、この女。


さっきの山影って奴とこの女を見比べた限り、まともそうに見えるのは多分山影って奴の方だろう。



「ねぇ、お酒いっぱいあんじゃん?何か出してってさっきから言ってるんだけど!」


しかもまるで菜月を下僕のように扱っている。


この女、相当性格悪いな。昔の俺でも鼻にも引っ掛けねーよ、こんな奴。


「ここの酒はうちの店で使うやつだから、プライベートでは出せない。それより何で毎日アンタらあんなに喧嘩ばっかしてんの?」


俺が居間にいることに初めて気づいたらしい女が、立ち上がって俺に抱きついてきた。引っ剥がそうとしたが、あまりのショックに体が動かない。しかもこの女、香水超臭ぇ。


「助けてくれて、ありがとぉ!アイツねーぇ、DVの相談所とかにも相談してるからあたしには近寄れないハズなのに、興信所とかで住所調べて、ああやってあたしの所に来て叩いたりするの。マユ、気持ち悪いし超怖くてぇ……」


お前の上目遣いの方が気持ち悪いわ。