こんな夜中に、しかもいきなり訪ねて行って言うことじゃねぇだろ!俺の馬鹿!


「あっ…あの!順番間違えました。昨日は菜月さんを、うちに泊まらせてしまってすみません……」

「……あなたの家に泊まったの?」


冷やかなおふくろさんの声と表情が、突き刺さるようで痛い。マジで痛い。


「……はい、あの……」

「私が昨日は飲み過ぎたの!」


横を見れば菜月も必死な顔で、おふくろさんに言い訳をしていた。


「私が飲んで寝てしまったから、蓮は悪くないの!」

「でも菜月が、まだ嫁入り前の女の子だという自覚はあったの?成人しているとは言え、菜月はまだ21才。まだまだ学生気分が抜けきらない娘よ?あなたはそこら辺をどう思っているのかしら?」


立て板に水を流すように俺に詰問するおふくろさんに、なんと返したものかと思考する。


「……昨夜の事は、確かに無責任な行動の結果でした。本来なら俺がリードしてやらなきゃいけないのに……。ですが、菜月さんとの将来を考えているということだけは、理解して頂きたいです」


当たって砕けろ。


俺は頭を直角に下げて、おふくろさんの返事を待った。



「……反省は、してるのね?」

「勿論です。だから……」


はぁ、と溜め息をついたおふくろさんが、今度は諦めたような顔で俺に近づいてきた。


「菜月はね、一人娘だから余計に神経質になるのよね。海野さん、でしたか。菜月とあなたがこの先どういうお付き合いをなさるのか、それをお話しするには少し時間が遅いようね」

「はい、日を改めてきちんとご挨拶に伺おうと思っていました。今日は菜月さんを家まで送るつもりだったので……」


おふくろさんに黙らされていた菜月が、俺をまたしても庇う。


「今度のお父さんの休みに合わせて蓮を紹介しようとしてたの。今日もお母さん達に挨拶しなくていいよって言ったけど、蓮はこうしてちゃんとお母さんに話してくれたんだから……」


すがるような瞳で菜月がおふくろさんを見つめている。




………折れたのは、おふくろさんの方だった。




「…お父さんには上手く伝えておくから。あと、外泊をする時は連絡を寄越させてね。心配するから」

おふくろさんが俺に向かって、そう告げた。



これは、交際を認めても良いって事か?


「はい。今度からはそうします」

殊勝に答えてもう一度頭を下げた。


「では夜分遅くにすみませんでした。失礼します」


菜月に手を軽く上げ、車に向かって歩きだす。その背後からパタパタと駆け寄る足音。

振り返る間もなく後ろから抱き付かれた。


「ごめんね、うちの親が厳しくて……」

泣きそうな顔の菜月を前にすれば、まだ残っていた緊張感も吹っ飛んでしまう。


「おふくろさん達にしてみりゃ当然の言い分だろ。菜月が気に病むことじゃないし、俺も当然だと思う。それより明日も仕事だろ?早く寝な」


安心させるように優しく笑って頭を撫でてやると、菜月はホッとしたように頷いた。


なのに。

俺が車に乗り込み、発信させ、遠く見えなくなるまで、菜月とおふくろさんは車を見送っていた――――。