「ただいまぁ……」

「菜月!!あんた昨日はどこに泊まったの!?」


玄関を開けてすぐに、お母さんの怒鳴り声が飛んできた。

そうだった、連絡しないで無断外泊しちゃったんだっけ。


「お父さんがすごく怒ってたわよ。もう仕事に行ったけど、今夜はお父さんに怒られるのを覚悟しときなさいよね」


今夜?駄目。

だって蓮の店に行くから遅くなるもん。


「あー…。今日は、会社の人達との付き合いがあるから…。遅くなり、ます……」


段々と語尾が小声になっていったのは、お母さんの眉間の皺がどんどん増えていったからだ。


「じゃあ今教えなさい!昨日はどこに泊まってたの!?あんたの友達に電話したけど、皆知らないって言うじゃない!?」

「彼氏んとこだろ。なにお前、中井のツレの海野と付き合ってんだって?」



……兄貴めぇ、余計な事を!

今この状況で、お母さんの前で暴露しなくても良いじゃんか!


「初耳ね。お付き合いしてる人がいるの、菜月?」


有無を言わさぬ迫力で、お母さんが私を見下ろしている。身長はそんなに変わらないはずなんだけど、圧倒的な迫力に押されて私が縮こまってるからそう思えるだけなのかも。


「……最近、彼氏ができました。言ってなくてごめん……」


なんで20歳を過ぎてるのに、親にこんな報告しなきゃなんないのよ?


とは言っても、心配かけさせたのは事実だから、ひたすら下手に出るしかない訳で。


「海野って遊んでそうだよなー。お前大丈夫か?二股とかかけられてんじゃね?」


……空気読んで喋れよ、バカタレ兄貴めぇぇ!つーかさっさと仕事に行け!!!!


兄貴を睨み付けていた顔をぎこちなくお母さんの方に戻すと、まるでブリザードのような冷気がお母さんから吹いているみたいだ。


「……菜月。今度その人を連れてきなさい」


冷気漂うお母さんから下された厳命に逆らえる筈もなく、私はこくこくと頷いた。