……勿論1つで良いよな。1つだけなら映画観てる間に色々できるし。


注文した品を持って菜月の元に戻ると、菜月が嬉しそうにそれを受け取った。


「菜月、甘いもん好きなの?」


うちの姉さんも甘いものには目がないけど、菜月もそうなのか?


「大好きだよー。仕事が休みの日はよく食べに行く。あ、前はたまに伊織さんとケーキバイキングに行ってたよ」

「初耳だな、それ」


そんなに菜月は姉さんと仲が良かったのか。

姉さんが菜月を気に入るのも、分かる気がするけどな。




コイツの笑顔には癒される。


この前のフェアでも感じたけど、真っ直ぐに太陽に向かう明るい向日葵みたいだ。


だけどまだ、姉さんや中井さんに対する態度と俺に対する態度は違うように感じるのは、菜月は俺の事を警戒してるんだろうか?


中井さんは菜月は人見知りするって言ったけど、今までにコイツはどんな男と付き合ったんだろう?


こんなに焦がれるような気持ちをもて余すぐらいに誰かを好きになった事、菜月はあるんだろうか?

「ねぇ、私達もそろそろチケット買った方がいいよね?蓮さんがポップコーン買ってくれたから、私がチケット買ってくるよ」

椅子から立ち上がった菜月の手を握ったのは全くの無意識の行動だった。


菜月は一瞬驚いたように目を見開いたけど、握った手を振り払いはしなかった。




混雑するフロアを手を繋いで歩く。




軽く握った手のひらに伝わる、菜月の冷たい指先。




絡めた指を放したくなくて、俺は菜月の左手をそっと包んだ。






……このままずっと、菜月を捕まえていたい。