笥乃さんに別れを告げて、再び中井さんの車に乗り、俺のマンションまで送ってもらうよう頼んだ。


深夜の幹線道路を走る車の中で、如何にして菜月と話すきっかけを作るかを考えている。


終始無言の俺が気になったのか、中井さんが徐に口を開いた。


「……あのよぉ、実はナツと伊織も知り合いだった…ってのはお前は知らないだろ」

「へ?」


姉さんと菜月が、まさかの知り合い!?


「ナツは高校は佐瀬に通っててな、兄貴の笥乃がその時の副担任だったんだよ。で、4年ぐらい前だったか、あいつらに文化祭に誘われて俺と伊織と二人で行ったことあるんだよ。確かそこでナツと伊織は面識を得たはずだけど」

「なんで早くそれ言わないんだよ!?」


それ知ってたら菜月ともっと打ち解けて話ができたかも知れないのに!



頭を抱えて悶える俺を横目に、中井さんが更に爆弾を投下した。



「お前がそこまでナツに本気なら、一回会ってゆっくり話でもするか?ああ見えてナツは男に対しては人見知りするけどな」

「なんか良い誘い方でもあるんですか?」


人見知りするのか、菜月。

なら普通に電話かけるのも駄目じゃん。どうすればいいってよ?



「俺と伊織とでセッティングすれば多分誘われて来ると思うけど。お前がいきなりナツに電話なんかしても断られるのがオチだろ」

「………」



ムカつく。


中井さんが菜月を餌にして姉さんとデートしようとしてる事にも腹立つが、何より菜月の事を俺より知ってるのには更に腹が立った。


だけど、菜月に近づくためなら仕方ない。


「… じゃ、みんなのスケジュールに合わせてどっか行き先きめといて貰えますか?俺はそれに合わせますんで」

「お前本気でナツ気に入ったのか?」

「……菜月の笑顔がね。なんか…良いなって思ったんだよな…」


それを聞いた中井さんが容赦なくゲラゲラ笑う。


なんだか中井さんの思うツボのような気もするが背に腹は変えられない。


上手く菜月と近づけるようにと祈りながら、俺は静かに目を閉じた。