「よぉ。相変わらず小っせーな。兄貴がタダ飲みした昨日のツケ払いに来たのか?殊勝な妹だな」

ヨッシーは回りの喧騒を気にすることなく気楽に私に話しかけてきた。


「貧乏教師は甘いものとパチンコ玉に金注ぎ込んでて、すかんぴんデスー。払う気なんてサラサラないと思うよ」

「なら黙って家飲みさせとけ」

「あいあいさー」



おどけてヨッシーに敬礼すると、ヨッシーに向かってマドラーが投げつけられた。


「勤務中に客ナンパしてんじゃねーよ、中井このやろう」



……海野さんが何故かは知らないけど不機嫌そうにヨッシーを睨んでいる。


この二人、仲が悪いのかな?



話題を変えるべく私はヨッシーに話を振った。


「つーか、なんでヨッシーはここにいるの?」

「ここはうちの姉妹店の一つ。用があって来ただけだ」


へー、なるほどね。


高校時代は髪の毛を金髪にしてピアスもチェーンもジャラジャラしてたヨッシーも、社会人になったらさすがに黒髪のイケメンに落ち着いたか。


それはそれで良いことだ、うん。



「……蓮、この娘狙うのは止めた方がいい。ハンパない暴食と怪力、おまけにすげぇ毒舌家だぞ?今は猫被りしてるだけで」

「うっせーよ、ヘタレが!!」


兄貴から聞いた話だと、ヨッシーには大学時代からずっと好きな人がいるのに、未だに告白すらできていないらしい。


そんなヨッシーを[ヘタレ]と言って笑っていることは兄貴と私の内緒の話だったりする。


「中井さん、マジで邪魔なんであっち行っててくんない?」

「おー怖ぇ怖ぇ」


大して怖がる風でもなく、ヨッシーはカウンターの隅に引っ込んで海野さんの作業を見つめている。




知り合いのヨッシーが居てくれたおかげで、なんとなく居心地は悪くはないかな、なんて思い始めた。