「やっぱり破水みたい。羊水が流れてきてる……」



羊水って、赤ん坊を保護してる水みたいなやつだっけ?


「俺が病院に電話するから、お前は着替えろよ」


菜月は力なくこくりと頷いて、妊婦用のゆったりしたワンピースに着替えていた。


その間に俺が病院に電話をかけると、早朝にも関わらず電話はすぐに繋がった。


混乱して支離滅裂な俺とは対照的に、電話に出た看護婦は到って冷静に菜月の様子を尋ねている。


「前期破水ですね。入院に必要な物を持って今すぐ病院の方へいらして下さい。先生にも話しておきます」


礼を述べて、通話を切った。


菜月はと言えば、キッチンのカウンターに突っ伏して陣痛の痛みに堪えているようだ。


「行くぞ、病院。歩けるか?」

「うん。頑張って歩く」


腹を守るように抱えて、菜月はゆっくり歩きだした。


「そう言えば、陣痛って間隔があるってお前言ってなかったか?今は何分置きに陣痛がきてんの?」


おふくろは俺を生むとき、3日も陣痛に苦しんだって言ってたけど……。


たかが一時間でもこんな苦しそうにしてんのに、3日なんてよくおふくろは堪えられたよな。



「陣痛の間隔が変なの。一時間前に始まって、30分ぐらいしてから一回、その後は15分置きに何回か…」


おいおいおいおい!!


どう考えても早すぎねーか!?


「……とにかく急ぐ。ヤバイと思ったらすぐ救急車を呼ぶから」

「えー?大丈夫だよ。うちのお母さんだって、2日ぐらい苦しんだって言ってたもん」


……だと良いんだがな。


車を運転しながら、後部座席に横たわる菜月を何度も振り返って様子を見る。


相変わらず苦しそうに呻く菜月。



焦れながらもなんとか無事に産院に着いた時には安心した。


「受け付けしてくる!」


車を駐車場に乱雑に停めると、俺は慌てて何も持たずに飛び出した。


窓口で菜月の名前を告げるとすぐに診察室に入るように指示される。


フラフラと自動ドアを潜って入ってきた菜月を支えて診察室に行くと、医者が既に椅子に座って待っていてくれた。


「まずは内診してみましょう。隣の診察台に移動できますか?」


返事をする気力もないのか、菜月はただこくんと頷いただけだ。


ここで待っていても仕方がないから、一旦車に戻り荷物を運びながら、先に菜月のおふくろさんの携帯に電話をかけた。


菜月のおふくろさんはすぐに病院に来てくれると言うことだ。


次にかけたのは俺のおふくろ。

おふくろは仕事を片付けてから来るから、夕方ぐらいになるらしい。


『大丈夫よ初産の進行は遅いから、陣痛が始まってもなかなか産まれないわよ!』


なんて余裕をかましてケラケラ笑って、おふくろはそんな事を言いやがる。


俺達は初めての経験だからマジで緊張してんの!茶化すの止めてくんない!?