式も披露宴も滞りなく進んでいく。

旦那さんのご友人達はみんな、久しぶりに顔を揃えたのが嬉しくて仕方がないのかやたら悪ノリしてマイクを離さなかったし、旦那さんも皆に進められるがまま、お酒を煽っている。


お色直しの為に新郎新婦が退出すると、今度は早苗さんの従姉妹だという高校生ぐらいの女の子が、最近の結婚式では定番になって歌われている女性アーティストのしっとりとしたバラードを歌い始めた。



騒々しい会場の喧騒にも彼女は気にすることなく、ただ一点をみつめて歌いあげていく。



彼女の目から涙が一筋溢れたのは、どうしてなんだろう?




彼女の視線の先を見る。



その席にあったのは、老婦人が笑顔で写っている写真だった。



歌い終わった名前も知らない彼女は、披露宴会場を静かに見渡してポソリと呟いた。


「お祖母ちゃんの替わりに、この歌を早苗姉ちゃんのお祝いに捧げます」と……。





あれほど騒がしかった場内は、静寂に包まれた。




「お祖母さんも楽しみにしてたのにねぇ…」

「あいつらの父ちゃん母ちゃんもだったからなぁ…」

「……あの地震さえなければさ…」

「みんなで最後に集まったの、合同慰霊祭の時だったもんね……」



そんなざわめきが場内を湿っぽく変えていく。



とうとう年嵩の女性が啜り泣きを始めた。


「二人の晴れ姿、家族も見たかったよねぇ。見せてあげたかったねぇ…」





そこここで啜り泣く人達の空気を読んで、司会進行役の女性アナウンサーがマイクを片手に一歩前に進み出る。



『この度の皆様のご苦労、そして心痛は計り知れないものと存じます。新郎様、そして新婦様が入場されました際には、ご家族のお形見をお持ちの方は是非ご一緒にお写真をお撮りになって差し上げて下さいませ。そうして改めて、今日のこの日を、ここにいらっしゃる皆様にとっての忘れられない記念日となれば、遠く離れたところにおいでのご家族にもそれは伝わるかと存じます』



アナウンサーの声に後押しされたのか、参列者がいそいそとバッグの中や懐から〔何か〕を取り出している。



それは、写真だったり小箱だったり。


吉田さんご夫婦に縁があったはずの、今はもう〔遠い所〕に逝ってしまった誰かに関するもの…つまり、〔遺品〕に違いない。


進行役の女性アナウンサーが、私と小柳さんに近づいてきて囁いた。


「お色直しの後はキャンドルサービスの予定でしたが、撮影のために時間をとりましょう」

「……そうですね。せっかく皆様が久しぶりに一同に集まって下さったわけですから…」


私も小柳さんも頷いた。


「キャンドルサービスの後は予定通りに式場からのサービス演出となりますが、20分ぐらい遅れるかも知れません。大丈夫ですか?」


アナウンサーの言葉を聞くと、小柳さんが心配そうに私を見た。


「大丈夫です。準備も今から始めてちょうどいいぐらいですから」


にこりと笑って私はアナウンサーに頷いた。



式場……ううん、〔私達〕から、吉田さんご夫婦への細やかなプレゼント。


この式の最後には、参列者の皆さんが元気に笑ってくれると良いんだけどな。