模擬結婚式が終わったら、蓮とは必要以上に話しをできる時間も無いぐらい慌ただしかったけど、それでも今夜のうちにホテルで落ち合う約束だけはできた。


落ち合うホテルは人気があるホテルなのに、蓮はいつの間に予約なんてしてたのかな?


控え室に戻ってメイクを落としていたら、意外な来訪者。


お父さんとお母さん、それに兄貴だ。

今日は驚かされてばっかりだ。なんで皆がここにいるの!?


「中井に呼ばれた。面白いもん見れるから、是非行ってやれってさ」

兄貴が悪びれもせず言ってのけた。面白いって何だよ!!


「まさかねぇ、菜月の花嫁姿を見られるなんて……」

うるうると涙腺が崩壊したように泣く、お母さん。


「……もういいだろう、結婚式は挙げなくても。何回もあんなのを見せられたらたまらん。心臓に悪い」

ぶっきらぼうに言ったお父さんの目は、心なしか赤い。


「花嫁から父親への手紙も読めば良かったね」

いひ、と意地悪に笑ってお父さんを茶化した。

「これで逃げたら海野くん、立つ瀬ねーよな。あとは頑張んな」


兄貴の一言を残して、うちの家族は帰っていった。


入れ違いに入ってきたのは、小柳さんだ。


「大成功だったね、菜月!あんたと海野さんならやらかしてくれると信じて仕掛けたんだぁ、今日の模擬結婚式は!」


へ!?仕掛けた……って。

どういう事!?


「確かにさ、式に人気モデルを花嫁役に使ったらお客さんもそれなりに良い反応するけど、現実的ではないのよね。身近な女の子がシンデレラみたいな結婚式を挙げた方が、よりイメージが掴みやすいんだ。リアリティがあるしね。だから上に無理言って、今日の主役を菜月と海野さんに替えたの。おかげで作戦は大成功!!」


一気に捲し立てる小柳さんを呆然と見やった。


「……つまり?どういう……」

「今日来てたお客さんがね、菜月達の式に憧れて『自分達もあんな式にしたい』って夢見てくれたのよ。だからほーら、これなーんだ?」


そう言って小柳さんは一枚の紙を私の目の前に突き出した。



……それは、契約書。


吉田さんご夫婦の署名が入った、式をうちで挙げる旨にサインが入った契約書だった。


「吉田さんはもう前金も入金済み。平野さんの息子さんも…ってか、平野さんのお母さんが今日は前金を入金だけしたよ。平野さんは契約書は明日書いてくれるって」

「……あの、本当に……?」


嘘みたい。信じられない。

こんなに夢みたいな事が起きるなんて。