その結果、小柳さんもお客さんからフェアに来てもらえる確約を取り付けて、この日の営業は終了した。


最近はいつも帰社時間が夜の9時を過ぎていたから、まだ日が登っているうちに会社に帰れるのはありがたいな。



区境のエリアから一時間をかけて会社に戻ると、営業日報に成果を記入する。次いで、フェアの動員も報告。


平野さんのご両親の分のチケットを手配し終わると、今日の分は全部の仕事が終了した。



「はー。終わったぁ!今日は早く帰れそうだねぇ!」


隣のデスクで小柳さんも感嘆して溜め息を漏らしている。


12月に入ったらそりゃーハードな仕事だったもんね。


「ねぇ!今日はパーっと飲みに行こう!居酒屋で良いからさぁ」

「……小柳さんが奢ってくれるなら」


ちょっとだけ甘えてみたけど、しっぺ返しされた。


「はぁ?何言ってんの?営業がお客さんに挙式を決めて貰ったら、特別手当てが会社から出るのに!?菜月はリーチかかってんでしょ?今のうちに奢らせようっと」


……まだそんなの出てないのに!しかもまだ式を挙げてもらえるかも分かんないのに!


「まーまー。給料日前だし、[瀧澤屋]でいいよね?」

「居酒屋ならどこでも良いです」


居酒屋って聞いたら、無性に焼き鳥が食べたくなってきたぞ。

よし、最初に焼き鳥を頼もう。



まさか小柳さんが飲み放題を頼むとは知らない私は、足取りも軽く会社を後にした。






「だーらね、菜月は最後のツメが甘いんだって!今日だって平野さん?だっけ、言い訳させないように逃げ道を一つずつ塞ぐトークをしないと、らーめ!らめなんだよぅ…」


げ。小柳さんがへべれけだ。


かれこれ1時間半も飲んだのかな?最初はビール…の筈が、小柳さんの手にはいつの間にか芋焼酎のグラスが握られている。


「だってまだ経験浅いですもん」


飲んべえに言っても仕方ないけど、とりあえず反論はした。


「菜月はまだ21才だかんねー…って、22だっけ?」

「まだ21ですぅ」


ぷくーと頬を膨らませる。


だって、来年の3月にならないと22にはなんないし。分かってますよ、人生経験もないひよっこだって言いたいんでしょ!?


「自分の結婚式もまだまだ先の話しだもんね。あー、あたしも早く結婚したいわー。相手は海野さんみたいなオトコがいい!!」


へ!?海野さん!?

海野さんて蓮の事!?

それだけは…!


「らめれふ!!蓮は私の!!」

「……は?『蓮』……?」




……あ。思わずやらかした。