「おたくの式場は幹線道路沿いに建ってるんだね。駅前とか街中じゃなくて」

「はい、市街地より少し離れていますが、高速道路にも近い位置にありますね」


うっ。駅前や市街地の他の式場に比べると、確かにうちの式場の交通の便は、不利…なのかな?



「うーん…。多分、結婚式に来るのは皆遠方からだし、うちらとしては駅前とかよりおたくの式場の方が交通の便では良いんだよね…」


えっ!?…ってことは!?


「……もしかして、挙式のご予定がおあり…ですか?」


結婚式を挙げたい人なのかな!?


「式を挙げたいって言うか、本当は一昨年挙げる予定だったんだけどね…。色々あって式は挙げられなくて、入籍だけ済ませちゃった」


色々?色々って何だろ?どうしよ、この人に対応できるぐらいのトークが出来るかな…?


「まあ、立ち話もなんだから、部屋に上がってもらえる?あたしも話を聞きたいし」

「……はい!」


うわ、初めて訪問先の人に部屋に上がるように勧められたよ!すっごく緊張する…!



上げてもらった部屋の中は、外観とは想像も出来ないぐらいに違っていた。


どう見ても若い二人が同棲してるような、そんな甘い感じの部屋だ。


どんな間取りかは分からないけど、部屋もフローリング敷きの洋室に模様替えされていて、キャラクターや可愛い小物があちこちに置いてある。


ペアで揃えられた座椅子にクッション。


チェストの上には目の前の女の人と、多分相手の男の人のツーショット写真が可愛いフレームに収まって飾られている。


その横に飾られた写真に、目を奪われた。




……あの震災で、津波被害で更地にされた東北地方のとある沿岸の町並みの残骸と、穏やかな海が撮された、写真だった。


「……あの、失礼ですが、この写真は……」


女の人は私にコーヒーを薦めながら「ああ」と、気づいて答えた。



「そこはね、あたしとダンナの生まれ故郷なんだ。今は住んでる人は誰もいない。あの震災で、うちらの父親も母親も亡くなったしね……」


「……そうですか。それは……」


なんて言って言葉をかければ良いのか、分からない。

言葉を探してその写真を見たけど、そこに撮されているのは、瓦礫の山を見なければ、ただ穏やかな海岸の景色に見える。


「東北からこちらには、お仕事でいらしたんですか?」


あれこれ考えて、ようやく無難な言葉を見つけた。


「うん。あっち…今まで住んでた所には仕事がなくてね。ダンナの親戚を頼って、住む所と仕事は確保したの。じゃないと、あっちでは生活できないからね」

「東北の現状は今でも厳しいんですか?」

「臨海産業は全部駄目になったからね。仕事がないから県外でみつけるしかなくて……。それで、こっちに引っ越したの。あたしとダンナ、二人で」