小柳さんの読みが当たったのか、このエリアは確かにいい反応が返ってくる土地柄みたい。


都市部で営業をかけても、大体がインターフォン越しでしか話してくれないし、殆どの家庭が、まず家の中からは出て来てはくれない。


なのに今日回っているエリアの家庭の人達は、インターフォンを鳴らすと必ず出て来て話を聞いてくれる。


その中には[彼氏の家に彼女も同棲していて、本人同士は結婚に焦ってはいないが、親同士は早く式を挙げさせたい]とぼやく家庭が二組もあった。


勿論カタログで式場や料理、演出をしっかり紹介したし、式にかかる大体の金額を教えてあげたりした。


残念なのは、二組とも肝心のカップルがいなかったことかな?


お母さん達の食い付き方は都市部には見られないほど熱心なものだ。


……これは良い感じかも……!


二軒目のお母さんには、カップル二人がいる時に必ず再訪問するアポイントメントを取り付け、隣の家へと移動した。




隣の家……と言っても、小屋を改造して無理矢理住居用に作り替えたような、人が住んでるかどうかが微妙な家だった。


……ここ、人なんて住んでるのかな?

ホームレスみたいな小汚いオジサンとかが出てきたらどうしよう?



でも、営業の鉄則は【一村を残しても一戸を残すな】だって教えられた。



つまり、【村一つ回れないなら、ポツリポツリと穴空きに営業するくらいなら全部明日回れば良い。だけど一つ飛ばしや穴空きに営業するのは駄目。回るなら全部の家を回れ】って意味だそうだ。


その言葉を念仏のように唱えらがら、恐る恐る玄関のチャイムを鳴らす。


すると返ってきたのは、若い女の人の「はーい!」と言う元気な声。


……良かった、変なオジサンじゃなくて!


ギイッと立て付けの悪い玄関の扉を開けてくれたのは、私より4~5歳年上に見える綺麗な女の人。


見惚れていたけど、我に返って来訪の目的と結婚式の案内を説明し始める。


この人はどうだろう……と、反応を見ると、すごく真剣な顔で説明を聞いてくれている。




……もしかして、手応えあり…かも!