「そう言えばお前、菜月ちゃんとは別れたんだって?」


瀬名さんが唐突に聞いてきた。


「別れてないですよ。誰がそんな事を言ったんです?」

「えー?あのヒト、アタシには『蓮とはもう会いたくない』って言ってたけどぉ?」


まるで空気を読めない発言をしたのは、目の前にいる憎たらしい女だ。

……おい、待てよ?こいつ菜月が『会いたくないって言ってた』つったよな?

と言うことは、こいつは俺が知らないところで菜月に会った事があんのか?


……だから菜月が俺とこの女との関係を誤解したのか?


俺が睨んでみてもこの女はどこ吹く風といった様子で鼻唄なんぞ唄ってやがる。


……マジでこの女殴りてぇ……。



「なんだ。もし蓮が本当に菜月ちゃんと別れたんだったら、うちの真優を薦めてたんだけどな。真優、お前は菜月ちゃんとはどこで会って蓮の話をしたんだ?別れたとかそう言う話を」


瀬名さんが俺に身の毛もよだつ事を言う。


あり得ねぇ。俺がこの女と付き合う?


いくら瀬名さんに薦められたからって、こんなのに「はい」なんて言うわけねーだろ。

人の心がこんなんで手に入るなんて思ってるなら、この女はマジでどうしようもない馬鹿女だ。


「なんかー、こないだ偶然街で見かけたっぽい。蓮と別れたって自分から言い出してぇ、すっごいやつれてたけどー、蓮からフッたんでしょ?」


もう黙れよ。


その嘘ばっか並べてる口を塞げよ。


「……菜月とは別れてない。今はあいつの仕事が忙しいから……」

「でもぉ、蓮はあのヒトじゃないオンナを部屋に入れてたよね?この前の夜」


……は?なんでこの女がそこまで知ってんの?


「おいおい、菜月ちゃんがいるのに浮気してるのか?節操がないな」

「………」


この女の前で瀬名さんに言い訳したところで、全く非建設的だ。


下手すりゃ言質を取られて益々菜月との関係が拗れるだけだろう。



にしても、だ。なんでこの女があの夜の事を知ってる?

そして、どこで菜月と会った?



どうにか探りを入れようとこの女の顔色を伺うが、こいつが本当の事を話すはずがない。


だけどこいつは、絶対菜月に何かした筈。



それだけでもどうにか出来れば……。