痛いほどの沈黙が車内を包んだ。


蓮はハンドルに手をかけたまま、突っ伏して微動だにしない。


もう、いいでしょう?


信じてあげられなくて、ごめんね。


でも、蓮の夢は応援してるから、真優さんと二人で頑張ってね。



言いたいことを胸の中に仕舞って、蓮の頭に手を伸ばしかけて途中で止めた。


これから先は、もうこんな事しちゃいけないんだ。


それは私の役目ではないんだから。



蓮がゆっくりと顔を上げた。


その目は真っ赤に染まっている。


蓮、泣いてたの?どうして?



「……俺が、頑張ってお前の信用を取り戻せるって自信がついたら……また迎えに行くから。……って、浮気男の常套文句だけど、本気で言ってるから、俺」


自信?蓮は真優さんを選ぶんだよね?

だったらそんな約束をしないでよ。


「お前からのネックレス、ずっと持っててもいいか?」

「それは駄目だよ。蓮に必要なのは、真優さんの……」

「あの女は関係ないから!」


それは絶叫に近かった。

なんでそんなに私の前で、真優さんとの事を否定するの?


昨日蓮が会ってたのは、真優さんじゃないの?


「お前しか要らねーんだよ。信じて貰えるようになるまで、俺頑張るから……。待っててくれよ……」


私を見つめる蓮の目から、涙が一粒零れ落ちた。


私は思わずその頬に伝う雫を掬って撫でている。


………こんなに愛しい人。


でも、一緒には居られない。


本当の事を今更蓮に話しても、結局はどうしようもないから。


「……蓮の好きなようにするといいよ。私は、暫くは仕事で忙しいから新しい恋なんて出来そうにないし」


それは本当。畑違いの営業で、慣れない神経を磨り減らすんだろうな。


だから、蓮の方は……。



「菜月が違う奴と付き合うなんて許さない。絶対に奪い返す」

そんな気を持たせる事を言わないでよ。これでも泣くまいと我慢してるんだから。



「……送ってく。毎日連絡する」

「真優さんが嫉妬するから止めなよ」


でも真優さんなら、蓮がいても浮気はしそうだけどね。


そう言えば、どうして蓮は真優さんと昨日みたいなシチュエーションになったんだろう?


まあ、今となってはどうでもいい話だけど。


辛いけどね。


「だから、何であの女が出てくるんだよ!?昨日の女は……」

「昨日の女は?何?」

「……いや、何でもない。けど、今から家に帰るんだよな?送るから」

「……いいよ。歩いて帰る」


嫌だ駄目だを押し問答した挙げ句、結局蓮に押し切られて家まで送られてしまった。



………もうこれが最後。


蓮には、逢わないから……。