私はまだ朝靄がかかる早朝に家を出た。


家にも居たくない。


もしかしたら蓮が家まで来て、決定的な一言を言うんじゃないか。

私には、もう気持ちが残っていないという事実を、突き付けられるんじゃないか。

そればかりを心配していた。


蓮の口からそんな事を聞かされるのは辛い。

それだけ、未だに蓮の事が好きだから。







早々に職場に着いた私は、上司に呼ばれた。


何だろうと上司の机に行くと、辞令と共に配置替えの指示を出される。


施行課から営業課への配置替えだ。



今までの施行課はインフォメーションで案内する事から挙式の時にはパントリーの給仕係まで、館内だけで仕事を済ませてきた。


だけど営業課となるとそうはいかない。


個人宅を一軒一軒当たって飛び込み営業をかけたり、ショッピングモールで相談会を開催したり。


人見知りする方ではないけれど、やっぱり断られたりするとヘコむのは間違いない、厳しい世界だと言う。


……私に務まるのかな?



その日の前半は引き継ぎに追われた。後任の人に業務内容とマニュアルを作成して渡す。


その作業が終わる頃には昼休みが半分も潰されていた。


昨日の件で食欲なんか無いから、コンビニに栄養ドリンクでも買いに走ろうかと席を立つ。

すると、インフォメーションに呼び出しを受けた。私宛に来客だと告げられる。


前に名刺でも渡したお客さんかと思って、急いでインフォメーションへ行ってみれば、今は一番会いたくない人がそこにいた。




………真優さんだ。



渋面が出てしまっていたのだろうか、私の顔を見るなり彼女はあからさまに睨んできた。


そんなに見たくないなら来なきゃいいのに。態々私に何の用?


「アンタに話しておきたい事があるんだけど」


待ち合いの椅子から立ち上がって、彼女は言いたいらしい事を勝手に喋りだした。


「プライベートの話でしたら外で伺います」


この場で修羅場なんか演じられても困る。


そう判断した私は、彼女を外の喫煙所に連れ出した。

従業員用で、回りには見えない様にパーテーションで仕切ってあるから、ここならたとえ叫ばれても大丈夫だろう。


「……昨日、アンタ蓮のマンションに来たでしょ?」


なんで彼女がそんな事を知ってるんだろう?


……まさか……。


「こっそり覗き見してたでしょ?アタシと蓮がヤってるとこ」


昨日の蓮の相手は、真優さん……だったんだ……。