夕方、菜月が勤める式場の駐車場に車を停めて、菜月が出てくるのをひたすら待っていた。


1時間ほど待ってたら、ようやく菜月が従業員の出入り口から出て来たのを確認する。


車から素早く降りて菜月に近づき、その細い腕を捕まえた。


「れ…ん?」

「……話、聞いて。頼むから……」


菜月に懇願する。俺の話を、聞いて欲しいから。


「……もう、話すことなんてなくなっちゃったね……」


菜月は、泣き出しそうなくせに笑顔を見せた。

涙を流すのを堪えてる。


こんなんじゃ駄目だ。


全てを諦めたかのような菜月を見ないふりをして、俺は腕を掴んで車に戻った。


菜月の顔からは何を考えているのかが読み取れない。感情を忘れたみたいに無表情だ。


「昨日、マンションに来たんだよな?」


それは確認でしかないと分かっている。

菜月の口から肯定の返事が返ってくるのが何より怖い。


「……行ったよ……。真優さんと、一緒だったんだ?昨日……」


何で?何であの女と一緒に居ることになってんだ!?


「違う!! 一緒にいたのはあの女じゃない。なんで……」



どうして菜月がそんな誤解をするんだよ。



「……でも、他の女の人を抱いてたのは…見間違いじゃないよね?」

「……ああ」


やっぱり、部屋の中に上がった菜月は、アレを見てしまってたんだ。


「もう相手が真優さんでも誰でもいいよ。……私達、もう……無理、だよ」

「なんでっ……」

「私がね、蓮を信じてあげられなくなったの。ごめんね。私さえ我慢してれば、蓮にとって良い方に夢が叶うかも…って思って我慢してた。……だけど、私より真優さんの方が蓮には似合ってるんじゃないかな……」


待てよ。昨日の事はあの女とは全く関係ないだろ?

さっきから何で菜月はあの女の事を言ってんだよ!?


「あの女の事は何とも思ってない。たとえ瀬名さんの娘でも、だ。昨日よく分かった。俺はお前じゃないと、駄目だって。だから、」

「私がもう耐えられないの。浮気するくらい、私の事は想って貰えてなかったのかな……?」

「そんな訳ねぇだろ!!」


菜月の事を想っていないなら、こんなに胸が痛くなる筈がない。

毎日携帯の待ち受けを見てた。菜月と俺が初めて行った時の観覧車の前で撮ったやつ。


着信やメールが来てるんじゃないかと、何回も待ち受け見て落ち込んだ。


「……ごめんね、もう…無理。だけど」



だけど、何だよ。



その先を言うな。


頼むから……。



「大好きだったよ、蓮……」