「……」

 いつだってそうだ。

 幸せな時間は、突然の出来事で全く予想のつかないような方向へ流れる。
 人生はそういう理不尽な事でいっぱいだ。
 鮎川さんの人生が今大きく変わろうとしている。
 だいたい、彼女の人生にどうしてこんなに不幸が重ならなければならないのか。
 両親の離婚、お兄さんの事故、お母様の死。
 そして、健康だった自分の体までどうにかなりそうになっている。

 私は少し自分勝手な妄想を抱いていた。
 この事がきっかけで、光一さんの心の重心が鮎川さんに置かれてしまうのではないか……。
 愛する対象が変わるというのでもなくて、とにかく彼女を立ち直らせる為にきっと光一さんは全力で力になるだろうというのが予想された。

 怪我をして苦しむ鮎川さんに対して私も人間として失礼な考えを抱いているなと分かっていたけれど、そういう心配が出ているのは事実で……こんな事を思っている自分も嫌いだった。

 二度目の電話で、とりあえず手術は無事に終わって、安定しているという事を伝えられた。
 あとは怪我の回復を待って、リハビリ時にどれだけ歩行が可能になるのかを見るという事だった。