平日の9時という時間でも、それなりに店の中には客がいて、私一人が多少長くそこで本を読んだりしていても全く違和感が無い。
 メールで知らされた電車の到着時刻より必ず30分ほど早くついてしまう私。
 光一さんがお店に入って来たら、別に長く待ったそぶりは見せないようにしている。何だか自分が彼にどれだけ夢中なのかを知られるのが恥ずかしいからだ。

「鈴音は最近よく笑うようになった」

 ホットココアを飲んでいた光一さんが嬉しそうにそう言った。
 甘党の彼はコーヒーショップにいても飲むのはココアかチョコシロップの入ったカフェモカだ。

「そう?光一さんも何だか性格が柔らかくなった気がするわよ」
「何かね……仕事を少し切り離して自分の大切な時間を持とうと決心してみたら、案外出来るようになったし。鈴音との時間が増えたのも心を穏やかにさせていると思う」

 本当に……。
 仕事に追われて目の色が変わっていた頃の彼とは、随分違う。
 高田さんほど完璧に割り切ってはいないんだろうけど、私と会う時は仕事の事は忘れる努力をしてくれているようだ。

 こうやって私達は11時くらいまでお互いの心を確認するように会い、「また明日」という決まり文句で別れる。
 今までは「また来週」とか「次はいつ会えるかな」なんて言ってたのに、毎日のように会えるっていうのは本当に嬉しい。