「あがって」
「あ……はい……」
案内された場所は、城崎さんの部屋だった。
今のあたしにとって、初めて見たはずのその部屋は、どこか懐かしい感じがして、安らぐ空間のような気がした。
だけど、部屋に入るものの、どうしたらいいのか分からず、部屋の隅に突っ立ったまま。
明から背中を押され、あたしは自分の本心に正直になろうと決めたけど、記憶はやっぱり戻っていないから、どこか落ち着かない。
そんなあたしを、城崎さんは後ろから抱きしめてきた。
「あ、あの……」
「ったく……何度もいなくなんなよ……」
あたしの首元に顔をうずめ、本当に愛おしそうに抱きしめる城崎さん。
ふわりと香る彼の匂いは、まるで媚薬のようにあたしの意識を朦朧とさせた。
「あ…たし……」
トクントクンと高鳴る鼓動に負けて、どうにかなってしまいそうな自分を抑え、あたしはなんとか言葉を発した。
だけど彼の腕が緩むことはない。