「あーあ。あわよくば…ってあたしもひそかに狙ってたのに……。
 やっぱハードル高すぎですよねー」

「え?あ、はは」


一瞬自分の世界に入りそうになったところでなんとか我に返り、あたしはエミちゃんに愛想笑いを返した。


そっか…。
自分の記憶のことでいっぱいになってて気が付かなかったけど、
城崎さんって、かなりカッコイイんだ……。

そんな人が、どうしてあたしを……?


「城…崎さんは?」
「中にいますよー。挨拶とかでもしていきます?」
「あ、ううん!いいの全然っ」


あたしは慌てて首を振った。

今ここで彼に会っても、何を話したらいいのか分からない。

それに一目でも顔を見たら……
きっとあたしはまた、熱を帯びてしまう……。


「それじゃあ、あたしは帰るね」
「え、もう帰っちゃうんですかー?」
「ごめんね。このあと用事があって……」


そんなのは嘘。

だけど一度、あの壁の向こう側に城崎さんがいると思うと、意識して冷静さを保っていられる自信がなかった。

あたしは、寂しそうに嘆くエミちゃんをあとにし、店を出ることにした。