「全健忘……のようですね」
あれから再び先生の診察を受け、あたしはそう診断された。
「全健忘?」
「記憶喪失…といったほうが分かりやすいでしょうか。
夕菜さんは階段から落ちたとき、頭を強く打っています。頭部外傷から、ある一定の期間の記憶が抜け落ちてしまったようです」
「そんな……」
あたしよりも、お母さんのほうが大きく反応する。
記憶が抜け落ちたと言われても、あたしには全く実感がない。
そんなこと言われても、あたしにはたくさんの思い出が頭の中に残っているから。
「一定の期間というのは?」
「おそらく、半年…と言ったところでしょうか。
いくつかの質問と、夕菜さんが今、自分の年を21歳だと言っているので…」
「そうですか……」
お父さんも悔やんだ表情をする。
半年くらいの記憶……
でもそれくらいの期間なら、たいしたことないんじゃないのかな……。
そう思っていたけど……
「……」
あたしはふと、後ろのほうで話を聞いていた彼に目を向けた。