コツ……、と足音が聞こえた。


おかしい。

決して静かではないこの場所で
確かに聞こえる一つの足音。


きっと聞こえているのは、あたしだけ。


その足音は、あたしの真後ろに来るとぴたりと止まった。


「……」


全神経が背中へと集中した。


振り返らなくなって分かる。

あたしの真後ろにいる人。



だってこんなにも

あたしの体を熱くさせる人は他にはいないから…。



「……夕菜…」



もう…ダメだ…。


あたしは本能には勝てない……。

 

「……ひろ…と……」



この人から逃れることは出来ない―――。