やはり、升屋と角屋がグルなのは間違いないようだ。


「それで、あの過激派浪士達が升屋を通じて、長州から武器弾薬を京に持ち込み、角屋にそれらを保管していることを知ったんです。」


「それで見つかっちまったわけか…。」


「はい、すみません。」


「いや、それは大手柄だ。」


「え?」


「過激派達が妙なことをして、何かを取り引きしているのを何度か見かけたが、なかなか尻尾を出さなくてな。すぐに角屋を捜索するぞ。総司、斎藤、頼んだぞ。」


土方にの後ろにいた斎藤と沖田の表情が変わる。


月は沖田の方を見るが、沖田はその視線に気づくことなく、斎藤と土方と共にに部屋を出て行った。







ーー翌朝。


まだ、誰もが寝静まっている都の朝。


新撰組一番組と三番組が角屋を目指して歩いて行く。






月は屯所の自分の部屋から身を起こし、障子から差し込む明かりにつられるように、戸を開けて夜明け前の空を仰ぐ。


それと同時に時が動き出す。




ーーードカッ!!



角屋の入口が強引に暴かれ、隊士達がなだれ込む。


その騒ぎを聞き付けた、浪士達が姿を現す。


「新撰組だ!!吉田以下、京の治安を乱そうとしたのは明白!観念して我らに投降するがいい!!」


「新撰組か!」


「お前らに邪魔されてたまるか!!」


「斬れ!斬れ!!」


威勢よく一勢に浪士達が新撰組へと襲いかかる。


そして、角屋は一刻も経たないいうちに、新撰組に制圧されることになる。







升屋にいた浪士達数人と長州に協力していた【古高俊太郎】を討ち取り、古高は重要人物として拷問にかけられることとなった。


拷問は屯所から少し離れた場所にある倉で行われたが、古高の奇声ともいえない叫び声が響き渡った。


月は起きて活動出来るまでに回復していたが、まだ本調子でないため、部屋で過ごすことになっていた。


古高が捕縛されたことにより、長州の思惑が明るみに出るだろう。


そうなれば、その後ろにいる吉田はもちろん、かつては主として仕えていた蛍とも対立することになるかもしれない。


もとから、敵ではあるが、やはり長州出身という肩書き消えない。


まだ見ぬ両親や義兄である史朗の行方も未だ分からず、どんどん故郷への足が遠退いていくのを感じていた。


「こんな所で何をしている。」






縁側に腰かけていた月に斎藤が声をかける。


「斎藤さん。」


「怪我人なら寝ていろ。」


「もう平気です。それより、長州の動きはどうでしたか?何か変わったことはなかったんですか?」


本日の巡察当番は斎藤率いる三番組だ。角屋が襲われ、長州に対する警戒がより一層強まっている。


古高とその一味の捕縛には成功したが、まだ吉田率いる一味が何処かにまだ潜伏しているはずだ。


「特に変わった動きはない。だが、古高が捕まったんだ。近いうちに動きがあるだろう。」


やはり、計画は実行されるようだ。


仲間が捕まってもやるということは、長州は京を占拠しようと考えているのかもしれない。


そう思うとこれからが心配だ。


「斎藤さん、稽古をつけてもらえませんか?」


「病み上がりが何を言う。今は身体を治すのが先だ。傷が癒えぬまま稽古をするわけにはいかん。」


稽古とはいえ、実戦と同じこと。


手を抜いてしまえば、大事に至ることも少なくない。


「……ですよね。」


なんだか気まずい雰囲気になる。


「私、部屋で休みますね。斎藤さんも……きゃあ!」


立ち上がった月の手を斎藤がぐっと引き寄せ、月は斎藤に倒れ込む形で抱き留められる。


一瞬何が起こったか分からなかったが、すぐに斎藤に抱きしめられているのだと理解すると、慌てて離そうとするが、掴まったあとだった。


「斎藤さん……!」


「あんまり無茶をするな。お前に何かあっては、俺の身が持たん。」


月を抱く斎藤の腕に力がこもる。


心配していたことが、分かってしまったのだろうか、困惑する月。


「斎藤さん……!」


困惑する月に優しくそれでいて、何処か緊張したように斎藤が言う。


「総司に足元をすくわれるぞ、と言ったが、まさか俺がその相手になるとは……。」


「え…?」


斎藤が月の両肩をぐっと掴み、向き合う形をとる。


「月、俺はお前を愛している。」


「!」


「お前が総司を好いていることは知っている。だが、俺はお前を愛してしまったのだ。この気持ちを覆すことは出来ん。」


真っすぐと月の瞳を見つめる斎藤。その想いがどれだけ本気なのか、すぐに理解が出きる。


「総司を好いたままでかまわん。俺の女になってくれ。」


「!」


もう一度、強く抱きしめられる。


高く鳴り響く鼓動……。






このまま、斎藤を好きになってしまえば、どれだけ良いか…分かったものではない。

だが、月はその想いを打ち払うように斎藤から身体を離した。


「月…。」


「ごめんなさい、斎藤さん…。私、斎藤さんも好きですけど、それは仲間として師匠としてなんです。恋仲として、男として、私が見られるのは一人しかいないんです。」


断るならもっといい方法があったかもしれない……。


もっと、優しい言葉がかけられたかもしれない。


失恋する想いは堪え難いものだ。


だが、受け入れるわけにもいかず、ただ自分の素直な思いを相手に告げるしかできなかった。


突き放した斎藤の顔を見るのが辛い…。


しかし、それとは逆に斎藤が突き放した月の手をとった。


「そうか、それがお前の想いなら仕方あるまい。」


「斎藤さん……。」


「そんな目で見るな。無理矢理にでも奪いたくなる。」


そっと月の頬撫でる斎藤。


そんな風にされると余計に胸が痛くなる。


すると、不意に唇に柔らかい感触がする。


「!」


それが接吻だと気づくと、慌てて避けようとするが、斎藤が先に月から唇を離した。


「これで今日のところは勘弁しておいてやろう。」


「さ、斎藤さん…!!」


「どうした顔が真っ赤だぞ?熱でもあるのか?」


あっという間に逆手に取られる月。


反撃しようにもあまりの恥ずかしさに、うまく言葉が出てこない。


開き直るにもほどがある。


斎藤はいつものように何でもないかのように笑っていた。


「もう!斎藤さんの馬鹿っ!!」


真剣に相手にしていたのが阿呆らしくなってしまう。


月はその場から離れ、部屋へと戻って行った。


「全然、成長していない……。」


月の部屋の戸口を眺めながら、斎藤は微笑んでいた。








それからというもの、古高の尋問は続き、もはや生きた屍と化していた。


角屋からは武器弾薬が押収され、頼りとなる吉田は何の行動もとろうとはしない。


もはや、拷問に耐えるのも時間の問題だろう。


月は回復し、溜まっていた屯所内の掃除を片付ける。


だが、屯所内は緊迫とした空気が広がっていて、とてもじゃないが誰かと話す余力がなかった。


その日の夕刻、ようやく事態が動き出す。


頑なに口を閉じ続けていた古高が、ついに口を割ったのだ。







そして、その内容は幕府側に対する明らかな敵対行動であった。


「なんだって!?御所を襲撃して、京の町を焼き払うだって!?」


「長州の奴ら何考えてんだ!?」


広間に集まっていた幹部達も、長州の計画に驚き耳を疑った。


「どうやら、長州は坂本達と手を組んだようですね。」


「どういうことだ、山南さん?」


「以前から坂本達は明らかな敵対行動をとっています。幕府を倒すにはそれなりに、強い力が必要。と、なれば幕府を動かすだけの強い藩を味方につけた方が、奴らには得ということです。幸いにも、薩摩の大久保も長州の高杉も、今の日本の在り方に疑念を抱いていますから、都合が良かったのでしょう。」


「なるほど、それで本軍が出る前に、奴らをこの京に来させたということか。」


「そういうことです。」


つまりは、過激派は長州の実験台として京に送られてきたということだ。


本軍の長州はまだ動かずにいる。おそらく過激派が倒れることになっても、長州は彼らを助けるつもりがないのだろう。


と、なれば後は過激派の象徴となる吉田率いる一味を捕らえるだけだ。


「古高が捕らえられ、奴らも警戒している。おそらく、まだこの京の何処かに潜んでいるはずだ。お前ら、何かこころあたりの場所はなかったか?」


「奴らが潜むとなれば、長州に協力的な【池田屋】、【四国屋】になります。」


斎藤がさらりと言う。だいたいの目星はついていたようだ。


「よし!そうと決まれば、作戦会議だ。それと、総司。」


「?」


「お前は後で奴を始末しておけ。いいな?」


「はい。」


幹部達は長州過激派を捕縛するために、作戦会議へと突入した。







それから数刻が経ち、月は一通りの仕事をし終え、夕飯の仕度に取り掛かるため勝手場へと向かっていた。


すると、ちょうど沖田の後ろ姿を見かける。


会議が終わり、一人で何処に行くのだろうかと気になり、月は後を追いかけることにした。


沖田は屯所を出て、裏手にある倉へと向かっていた。


そこは、あの古高が拷問に合って閉じ込められている場所だ。


長州の計画を吐いた今、沖田がその倉へ行く理由なんてないはずだ。


「!」


まさか……。


良くない考えが頭の中を過ぎる。


恐る恐る月は沖田が入って行った倉の中の様子を伺うと、




ーーービチャッッ!!



辺りに大量の鮮血が飛び、倉の中が黒く変色した。


沖田も返り血を浴び、顔についた血を手で拭う。


「………月ちゃん。そこにいるんでしょ?」


「!」


いつの間に気づいたのやら、月は観念したように扉から顔を出した。


その瞳は悲しい目をしていた。


「沖田さん…。」


沖田は人を斬ったばかりだというのに、いつものように笑っていた。





月と沖田は近くの境内へと歩いて行っていた。


夕刻で人通りも少なく、歩いているのは月と沖田の二人だけ。


「また、妙な所を見られちゃったね。もしかして君って意外と運が悪い?」


状態を言いながら笑う沖田。


前にも同じことがあったが、今はあの時とは違う。


月は沖田の視線を合わせられずにいた。


「やっぱり、あんなのは女が見るようなものじゃなかったね…。」


いまさらながらに沖田が言う。


血ならいくらでも見てきたから、いまさら見たからといってどってことない。


「沖田さんはいつも笑っていますよね…。人を斬る時も、遊んでいる時も……。」


まるで辛くないと言わんばかりの笑み。


そんな沖田の姿に、月は違和感を感じていた。


「君は意外なところを見てるんだね。」


「……いつものことですから。」


「いつものことか…。」


沖田が空を仰ぐように見つめる。


すでに夕刻が迫っていた。


「沖田さん。」


月の歩みが止まり、沖田が振り返る。


「ん?」


「せめて、人を斬る時だけは、笑わないで下さい。見ていて痛いです。」


「痛い?なんで?」


「沖田さんの笑顔が、泣いているように見えるから……。」


意外な言葉に目を丸くする沖田。そんなこと自分でも気づいていなかったことだ。


「泣いてるって……、君本当に変なことを言うね。そんなわけないじゃん。僕は好きで人を斬ってるんだよ?新撰組の前に立ち塞がる者は、たとえどんな相手であろうと敵は敵だからね。」


文字通り泣いているわけではない。むしろ戦いの時は楽しんでいるように見えて、逆に怖く感じることもあるが、さっきのは明らかに違う。


やはり、町の人からの裏切りは答えるのだろうか……。


「でも、さっきのは悲しそうに見えました。」


「それは月ちゃんの方じゃないの?僕は悲しくもないし後悔もしていない。奴がどうなろうと知ったことじゃないしね。」




「でも、近藤さんは辛そうでした。」


「………。」


沖田自身はそうでなくても、沖田が尊敬する近藤が辛いなら、少なからず彼も悲しいはずだ。


「近藤さんがそうであるなら、沖田さんもそうだったんじゃないんですか?」


月がまっすぐと沖田を見つめる。


これにはさすがに観念したように、顔を掻いて月の方を見た。


「君にはやっぱりかなわないな。」


沖田はそっと月を抱きしめた。


温かな温もりが月の身体を包み込む。


「沖田さん…。」


「そうやって思ってくれるのは、きっと君だけだよ。でも、僕はそれしかないから。人を斬ること以外で、この新撰組で役に立つことはないんだ。」


そんなことない…。


彼がいるからこそ、今の新撰組があるあると思う。それは誰がなっても同じことだ。


だけど、それは言わないほうがいいだろう。


そんな気がした………。








一方、長州の方では角屋の主が新撰組に捕まったという報告を受けていた。


「古高が捕まったので、計画に一部支障が出ました、……ですって。」


吉田の報告書を読み、顔を上げる蛍。


「ま、予想していたことだから、そう焦ることもないだろう。」


桂も冷静にそう判断をする。


京の都に協力者がいるという報告が入った時点で、今回のことは予想範囲であった。


「あの吉田が計画に失敗したからと言って、本藩に戻ってくることはないし、このまま黙って見ていた方が、得かもしれませんね。」


「そうね、この後の計画のこともあるし、あの人達が失敗した時のことも兼ねて、戦の準備もしていた方がいいわね。」


「本気で戦に出られる気ですか?」


「当然。私がこの任務の責任者だもの。戦に出ても文句は言われないわ。」


「ですが、相手はあの新撰組なのですよ?当然、沖田とも戦うことになるのですよ?」


「分かってるわ。だからこそ出るのよ。」


裏切られた沖田への当てつけなのかもしれない。


新撰組は京を守ろうとしている幕府側の者達。長州とは完全なる敵であり、戦う相手。


だからそれを笠に着て、沖田達が守ってきたものを壊し、自分が受けた鬱憤晴らすのだ。それくらいしないと、気が収まらない。


たとえ、当てつけだとしても、それは裏切った沖田のせいなのだ。


そう蛍は自分に何度も何十っぺんも言い聞かせていた。


「なら、いいのですが……。」





見返りなんていらない。後悔などしない。


蛍はそう自分自身に決意をしていた。


「桂は参加しなくてもいいの?」


「?」


「月のことよ。このまま黙っているつもり?」


「何を言っているのですか。この計画に外れた方がいいと言ったのは、媛様ではないですか。私はこのまま見守らせていただきますよ。」


「ずいぶん余裕なのね……。女にフラれたというのに……。」


「私には大切な妻がいますから、彼女だけで充分です。」


これが未婚者と既婚者の差なのだろうか、それとも老若の差なのだろうか、同じ立場にいても落ち着いて見える桂が恨めしかった。








一方、古高の自白により屯所内は慌ただしく動き出す。


しかし、状況は思わしくない。


隊士達がこのところ続く暑さと、度重なる隊務によって、体調不良者が相次いで出たのと、今だ連絡のこない会津藩とのことで、緊迫とした空気に包まれている。


月は体調不良者の看病に徹しながら、廊下を慌ただしく行きかう隊士達を見ていた。


「くそっ!まだ、会津から連絡が来ないのか!?」


「焦るなトシ。奴らの会合場所が絞りきれていないんだ。仕方あるまい。」


あれからの捜索で、予想通り吉田達の潜伏先は【池田屋】と【四国屋】に絞られていた。


一応、会津藩にも連絡をとったが、どちらかに絞りきれていないのが、気に食わないのか、後の連絡が途絶えた状態であった。


そして、監察型の山崎の報告により、今宵吉田率いる過激派浪士達が集まり、会合を開くとの知らせが入ってきたのだ。


だからなのか余計に土方がイライラしているように見えた。


近藤は局長だけに、落ち着いているようにも見えるが内心は穏やかでないのも分かる。



このまま、時間と共に過ぎて行くのかと思うともどかしくてならない。


「土方さん、そろそろ奴らが集まってくる頃だ!」


幹部達が浅葱色の羽織りを着込んで、見回りから戻ってきた。


もはや、会津藩の連絡を待っている時間はない。


「近藤さん、俺達だけでも討ち入りをしよう。」


「しかし、これだけの人数でどう戦う?」


隊士は幹部達を合わせても三十名尺しかいない。


しかも、隊は二つに別れることになる。どう考えても、この人数では危険すぎる討ち入りとなる。


万が一にでも、全滅してしまえば終わりだ。


だが、土方は決して意思を曲げなかった。




「必ずどちらかは当たりなんだ。ならその間に連絡網を張って、戦うしかねぇだろ。」



つまり、どちらかが当たりの場合は、もう一方の隊に連絡をし、援軍に走るということだ。


あまりにも無茶苦茶な賭けだが、会津の援軍が頼めない今はその方法しかない。


「………分かった。山南君、奴らは池田屋と四国屋、どちらで会合すると思う?」


「そうですね、私の知る限りで言いますと、池田屋は頻繁に使われていたようですし、古高が捕まった今、全員集めて会合を開くとすれば、ここは四国屋があたりなのではないでしょうか?」


「なるほど、四国屋だな。」


「すみません、私も怪我さえしていなければ、出られるのですが………。」


申し訳なさそうに、詫びる山南。今だ治療法は見つからず、左腕は寝たきりのまま。


「何を言う。山南君にはしっかりと屯所を守ってもらわなければならん。」


出陣ともなれば、新撰組に恨みを持つ輩には絶好の機会だ。


慰めというわけではないが、今の山南にはそれしかない。


皮肉だが、刀を持てぬ隊士は戦場へは駆けていけないのだ……。



にこりと笑いかける近藤だが、山南にはそれが返って痛みとなる。


「トシ、お前は二十四名連れていけ。」


「なっ…!近藤さんが十名で乗り込むのかよ!?それはあまりにも無茶だぜ!!」


「その代わりに、総司と平助を連れて行く。永倉君もこちらの隊に加わってくれ。」


「分かった!」


「こっちが本命の時は頼むぞ。」


「ああ。」


こうして、隊は二つに分かれた。


土方の隊【四国屋斑】隊士二十四名中幹部は、土方、斎藤、原田、で向かう。


対して本命でないとされる【池田屋斑】は近藤、沖田、藤堂、永倉、の十名で向かうこととなった。


しかし、そこへ思わぬ知らせが飛び込んで来る。


そして、それは通りすがりの月も耳にも入ることとなる。


「副長!大変です!」


「どうした山崎?」


「過激派を指揮しているとみられる、長州の姫が京に潜り込んでいるそうです!」


「なんだと? あの姫さんが、自ら戦場に出て来たということか?」


思わぬ登場人物に驚きを隠せない面々。


おそらく長州に見捨てられたことを察したのか、過激派が何らかの手を打ったのだろう。


「仲間割れか……。にしても、姫さんを戦場に出すとは、過激派も思いきったことをしたものだ。」






過激派にしてみれば、苦肉の策なのだろう。


だが、これは新撰組にとっても絶好の機会となる。


「どうするトシ?」


「願ってもない大物捕りだ。この機に長州に一太刀浴びせるのも悪くないな。」


「ダメです!!」


「!」


月は広間へと飛び込んだ。これにはさすがに皆驚いている。


「お前なにやってんだ!」


「蛍さんを殺してはいけません!」


「お前には関係ないことだろ!女は引っ込んでろ!」


「女でも新撰組の一人です!蛍さんを殺してはいけません!」


「何か理由があるのか?」


「近藤さん!」


「蛍さんは長州の姫です。姫を殺してしまえば、それこそ長州との関係は悪化してしまいます。いいえ、長州との全面戦争も免れません。それに、会津や幕府も巻き込むことになります。だから、蛍さんを殺してはいけません!」


確かに、新撰組としては長州と全面戦争になろうとも構わないが、会津や幕府、他藩まで巻き込むことになると、それはそれで問題だ。


大物捕りでもかなり危険な大物だ。


「なら、どうしろと言うんだ?」


「人質に捕るのです。蛍さんの性格からして、戦いに出るはずです。私が彼女を捕らえます。」


月であるなら、蛍と面識がある上に予想もしない人物だ。


刀の腕も並の隊士以上にある。


ここは月に任せた方が賢明かもしれない。


「分かった、ならその件は君に任せよう。トシの隊に同行してくれ。」


「はい。」


局長の許可が下り、月も一緒に四国屋へと向かうことになった。








月は急いで準備をするために、押し入れに直していた羽織りを引っ張り出す。


絶対に成功させ、皆の役に立たなければ。


それに沖田との無駄な戦いも避けられるかもしれない。


日が暮れてしまっているから部屋は薄暗かった。


「何してるの?」


声がして振り返ると、そこには隊服を着込んだ沖田が立っていた。うっすらと笑みを浮かべている。


「沖田さん。」


「いそいそと部屋に向かう姿が見えたから、また逢引かと思ってついて来ちゃったよ。」


クスクスと笑う沖田。


月の手に握られている隊服に気づいていた。


「そんなわけないじゃないですか、沖田さんじゃあるまいし、こんな非常事態にそんなことしませんよ。」


逢引と言われて一瞬ドキっとしたが、あえて平静を装う。