それまで書いていた筆が止まる。


そうなのだ。今回の計画は会津や京だけでなく、それを守ろうとする新撰組ともやり合うことになる。


そうなれば、沖田とも敵となるということだ。


裏切られたとはいえ、沖田は蛍の初恋の相手だ。そうそうに開き直ることは出来ないはずだ。


「……いいのです。決めたことですから。」


筆を持つ指に力を込めて、何事もないかのように筆を動かす。


「なら、いいのですが。」


「それを言うのなら、桂様もそうではありませんか?月からフラれた上に、あのような裏切り合うとは…、それこそ今回の計画から外れた方がいいのでは?」


「ええ、そうですね。だから私は手伝いをさせていただいているのです。その方が気紛れていい。」


どっちにしろ、互いに同じ立場だということだ。


桂の方は割り切れた分だけ良かったかもしれない。


桂と蛍は引き続き作業を進めた。







敵であった薩摩が突如、休戦状態となり、今や協力関係になりつつある長州。


それもすべて【坂本龍馬】とその一味のせいだということが分かり、幕府を始めとする幕府に協力的な藩が、坂本達を捕らえようと躍起になっていた。


会津はもちろん新撰組も、その命令を受け今や京の都は警戒体制に入り、新撰組は昼夜問わずに、厳重な警戒をし続けていた。


「坂本は見つかったか?」


「いや、見つかんねぇ。」


「この京にいるのは確かだ。何としても探しだせ。」


「あいよ。」


お風呂から上がって来た月は、その様子を近くの廊下から見ていた。


厳重な警戒をしているだけに、夜の巡察も一苦労のようだ。


今日の夜の巡察当番は原田率いる十番組であった。遅くまでの見回りでこのところ、隊士達も疲れているようだ。


土方は話し終えると中へと戻って行った。


「……なんだお前、まだ起きてたのか?」


部屋に戻ろうとした原田に見つかってしまう。


「はい、今日は仕事が多かったので。」


「そうか、遅くまでありがとうな。」


「いえ。大したことではありませんから。」


にこりと目を細めて笑う月。つられて原田も自然と笑みがこぼれる。


やはり、疲れて帰って来た時に見る女の笑顔はいい。


「なんなら少し付き合ってくれるか?」


「え?」


「少し酒でも飲まねぇと、寝られねぇからよ。少しだけ…。」


酒を飲む仕草をしながら頼む原田。それがおかしくて、つい承諾してしまう。


「はい。」








月は酒を飲むのを付き合うために、原田の部屋へと向かった。


周囲はすでに寝静まり、しんと静まり返り、この部屋だけがボンヤリと明かりが燈されていた。


原田の杯に酒を注ぐ月。


「悪いな。」


「いえ。」


「それにしても、こうやって静かに酒を飲むのは久しぶりだな。いつも新八や平助と一緒に飲んでったから、妙な気分にさせられちまう。」


「そうですね、いつも賑やかに飲んでいらっしゃいますものね。」


「そういやこの頃、お前を連れて巡察に出てねぇな。刀が扱えるんだから、連れて行ってもいいんだが…。」


刀が扱えるとはいえ月は女だ。隊士でもない者を危険な目に合わせるわけにはいかず、ずっと月は屯所の中にいた。


「いいんです。それに最近は、仕事も増えましたし、屯所にいても退屈はしませんから。」






「わりぃな…。そう言ってもらえると助かる。本当ならさっさと出て行ってもかまわねぇのに、俺達の側にいてくれて感謝してる。」


「私も、新撰組の皆さんによくしていただいて感謝しています。」


「月…。」


そっと原田が月の頬に触れる。原田の顔がほんのりと赤くなっていた。


「あんまり無茶すんなよ。お前に倒れられたら困る。」


「はい、気をつけます。」


「……よし!じゃあ寝るか!」


「はい。」


月はお酒をお盆に載せて立ち上がる。


「なんだよ、そんなの置いておけ。」


「え?」


「お前は今日は俺と一緒に寝るんだからよ。」


「!」


ニヤリと笑う原田。月の顔が真っ赤に紅潮する。


「な、なに馬鹿なことを言ってるんですか!?からかわないで下さい!」


「別にからかっちゃいないが、ダメか?」


「ダメです!そんなこと言ってないで、さっさと寝て下さい!寝坊して土方さんに叱られても知りませんからね!」


プイッと原田に背を向けて、月は出て行った。


「……まったく。あれじゃあ口うるさいカミさんになりそうだな……。」


原田はその背を見送り、夜空を見上げて微笑んでいた。








「なに!?壬生狼がこの角屋を嗅ぎ回っている!?」


「はい、会津だけならまだしも、奴らまで嗅ぎ回ってるとなると、武器の取り引きもまんろくに出来ません。」


長州との取り引きをしている商人が、主の元へと戻ってくる。


計画に先立ち、武器や弾薬を長州から持ち込むのに、新撰組が昼夜問わずに警戒しているため、闇取引さえも上手くいかないありさまだ。


「くっそ…!壬生狼め、我々の邪魔をしおって!」


「闇取引が出来なければ、武器が京に届きません。いかが致しましょう?」


「吉田様に相談してくるゆえ、お前はここで待ってろ。」


「はい。」


武器が入って来ないのでは、計画をした意味がない。とにかく、壬生狼に気づかれる前に計画を実行しなければならない。


角屋の主は宿屋に潜んでいる吉田のもとへと向かう。


「吉田様!」


「……壬生狼のせいで、長州との取り引きが失敗したか?」


すでに情報は吉田の耳にも入っていたらしい。


「はい。闇取引でも奴らに見つかりはしませんでしたが、かなり危うい状況です。武器が手に入れなければ、せっかくの計画が台なしです。」






「ならば、無理矢理にでも調達するまでだ。」


「で、ですが……!」


無理矢理にやってしまえば、新撰組に見つかり、計画が失敗に終わってしまう。


だが、吉田は顔色一つ変えずに、古高に命令を下す。


「計画のためだ。今夜中に武器と弾薬の調達を完了しろ。いいな?」


「は、はい…。」


計画を果たすには何としても、調達しなければならい。かなり危ない賭けではあるが、吉田は壬生狼に負ける気はしなかった。







後日、その吉田の思惑は沖田と月によって覆されることになる。


沖田と月はあれから、当たらず触らずといった感じで、別に恋仲という関係ではなかった。


しかし、気になる。


横を歩く沖田をちらりと見上げる。


以前から気になってはいたが、沖田は自分とは違う想いを求めていると思い、自分の気持ちを封印してきた。


もちろんそれまでにいろいろなことがあり、今更という感じでもあったが、今は違う。


想いが重なりつつあるのだ。


そう思うと、沖田が隣にいるというだけで、妙に意識してしまう。


「………月ちゃん。」


「は、はい。」


「そんなにあからさまに避けなくてもいいんじゃない?」


「えっ?」


「…………。」


ジット月を見る沖田。そこには妙な間が空いていた。


「あ……。」


いつの間にか、距離をつくっていたようだ。すぐに月は沖田の側へと寄る。


でも、妙に緊張してしまって顔があげられない。


「……そんな風にされると、いくら僕でも傷つくんだけど? 君が薬剤を買いに行きたいって言うから、わざわざ同行を許したのに。」


「す、すみません…。」


「……ねぇ。」


「きゃあっっ!!」


思わず驚いた月が後ろに飛びのく。沖田が近距離で顔を覗き込んだためだった。


これではあからさまに避けてます!というのが丸出しだ。


「そんなに驚かなくても…。」


「あ、その……。」


言い訳しようにも、口ごもってしまい上手い言葉が出てこない。


「まあ、いいけど。あんまり遅れないでよ。」


沖田は何でもないかのように、先に行ってしまう。月もその後ろを追いかけた。


沖田に変わったところがないのに、妙に意識してしまって馬鹿みたいだ。


そんなことを悶々と考えているうちに、目的地へと辿り着く。


ここからは沖田達の組とは別行動だ。






「ここまででいいよね?」


「はい、ありがとうございます。」


「じゃあ。」


沖田は月に背を向け、待たせていた組の方へと行く。


月はそれを見送り、目的の店へと向かう。


【升屋】は薬剤を取り扱う店。店先にはたくさんの種類の薬剤があって、足りない薬剤を調達するには便利がいい。


持ってきていたメモを取り出し、薬剤を選ぶ。


そこへ、角屋の者がやってくる。


宴会の席で見たことがある男で、あの時ヒソヒソと話していた者だ。


升屋の主と何かを話しているようだ。月は気づかれないよう、薬剤を選ぶフリをして男達に近づく。


「………銃をあと五十用意してくれ。こっちに三十ある。」


「分かった。弾薬の方も後で届けよう。」


「計画を進めるためにも、こっちで武器は保管している。頼んだぞ。」


「…………。」


男は月が聞いていることに気づかずに、店から出て行く。


これは物的証拠を掴める情報だ。


まだ、巡察をしている組が近くにいるかもしれない。


月は薬剤を選びそれを買うと、足早に店から出て行き、巡察をしている組を探す。


今日の当番は沖田の一番組と永倉の二番組だ。


月は走って行き、その途中で永倉の二番組を見つける。


声をかけようと走り寄ろうとすると、突然月の目の前に男達が現れる。


「!」


後を振り返ると男達はぐるりと月を囲んでいた。


「な、何かご用でしょうか?」


「ふん、ご用でしょうか? それはご用ですよ? お前今誰に声をかけようとしてたんだ?」


男の一人が尋ねる。よく見ると宴会にいた下っ端浪士達であった。


どうやら、月が聞いていたのに、気づいていたようだ。


「だ、誰にも用なんてございません! 早く帰りたいので、道を開けて下さい。」


慌てて否定をする月。


「はん!そんな話しが通用するかよ!」


「きゃあっ!」


浪士の一人に腕を掴まれる。


「お前新撰組に通じてんだろ?俺達の味方になれば、命だけでも助けてやるぜ?」


色目を使い顔を近づけてくる浪士。


冗談じゃない!


この前は調査であんな真似をしたが、こんな奴らに命乞いをするために、あんなこと出来るわけがない。


月はその男を突き飛ばす。


「やめて下さい!私はそんなんじゃありませんし、新撰組とも通じていません!」


「てめぇ…!俺達浪士とやり合おうってんのか?」




「いくら女でも、許せねぇな。」


「せっかく、命だけは助けてやろうと思ったのに、残念だ。」


「!」


男達は次々に刀を抜き、月へと迫る。


「死ね 女。」


「やあーーー!!」


「!」


一人の浪士が斬りかかってくる。月はとっさに抜刀し、浪士を斬りつける。


「この女!」


月は浪士達に刀を構え、攻撃してくる浪士達を次々に討ち取っていく。


絶対に死ぬわけにはいなかい。


なんとしてでも、この情報を新撰組に伝え、この京を守らなければならないのだ。


月と浪士の力の差では圧倒的に浪士が上だが、剣の実力の差では月の方が遥かに上だった。


次々に襲いかかってくる敵を、たった一人で斬りつけていく月。


血の飛沫が上がり、地面が血の海となる。


「くっそ! 化け物か…!」


女に負けるのが悔しくて仕方がないのか、そんな捨て台詞を吐く浪士達。


「うわっっーーー!!」


「!?」


月から殺されたはずの浪士が急に起き上がり、月を目掛けて突っ込んでくる。


「あっ!!」



ーーーグサッ!



避け切れずに刀が月の肉体へと食い込んだ。



「うっ……!!」


月はそれを勢いよく引き抜き、刺した浪士を斬り殺した。


ポタポタと鮮血が流れ落ちる。


ここぞばかりに、浪士が刀を振り上げた。


だが、月にはもう避けきれる力がない。


振り上げられた刃が太陽で光る。


「…………!」


死を覚悟し、その振り上げられた刃を見つめていると、突如、浪士が奇声を上げた。


「………?」


浪士が倒れると周りにいた浪士達も次々に、血の飛沫を上げながら地面へと倒れた。


なにが起こったのか一瞬分からなかったが、その姿を見てすぐに理解が出来た。


「月ちゃん!!」


すぐに駆け寄って来たのは、永倉だった。


「酷い出血だ!すぐに屯所へ連絡しろ!」


辺りで隊士達が慌ただしく動き出す。


永倉が手当てをしてくれるがその声も、辺りに響く隊士達の声も、今の月には届いていなかった。


朦朧とした意識の中で見つめていたのは、一番に駆け付けて来て助けたであろう、沖田の姿であった。


沖田と月は周りとは関係なしに、お互いを見つめ合い続けていた。


沖田が手にしていた刃から、血がポタポタと落ちていた……。






月はすぐに屯所へと運び込まれ、すぐに山崎の治療を受けた。




幸いにも急所は外れていて、命には別状はなかった。


しばらく安静にしていれば、良くなるとのことだった。


「容態は安定したらしいよ。しばらく休めば治るとのことだ。」


広間へと戻ってきた井上が言う。


その言葉に一気に安堵感が広がる。


「良かったー!」


「まったく、無茶しやがって…。」


永倉と沖田だけでなく、土方や他の幹部達も広間に集まっていた。


「にしても、驚いたね。まさか、彼女を襲ってくるとは。」


「武士の風上にもおけねぇ。」


「でも、正体がばれたわけじゃねぇんだろ?あの時とは姿格好が違うんだから。」


「本当のところは本人に聞かないと分からねぇが、角屋だけでなく升屋もグルだということだ。お前ら徹底的に奴らの近辺を探し回れ。奴らの計画を知るにはそれしかねぇ。」


角屋だけでなく升屋までもが長州の息がかかってるということだ。


このままでは長州の思う坪だ。


なんとしてでも奴らの企みを暴かなければならない。








それからしばらくして、月は目を覚ました。


見慣れた天井が広がっている。


そこへドタドタとあわただしい足音が近づいてくる。


「月ーー!大丈夫か!?」


「……平助君?」


「お、ようやく目を覚ましたか。」


「気がついて良かった良かった!」


「原田さん、永倉さんも。」


月はゆっくりと身を起こそうとすると、傷口が激しく痛む。


「いっ……!!」


「おいおい、無茶すんなよ!?まだ、傷口が塞がってないんだろ?」


「こ、これくらい大丈夫です。」


「無茶すんなよ。まだ、寝てろ。」


「本当に大丈夫です。それより、あの後どうなったんですか?」


傷よりもそっちが大切だ。月は自分の身体も省みずに原田達に尋ねた。


「そのことについてだが、先にこっちの質問に答えろ。」


逆の廊下側の襖が開き、土方達が入ってくる。


沖田と斎藤も一緒だ。


「土方さん……!」


まさかのお出ましに目を丸くする原田達。それに構わずに土方達は月の傍に座る。


「いったいあの場で何があったんだ?」


「って、土方さん。今そんな話しする場合じゃねぇだろ…?!」


「そうだぜ!月は病み上がりなんだぞ?」


「お前らは黙ってろ。」


土方の鬼の目で一喝され、二人は黙り込んでしまう。


「角屋にいた浪士達が升屋へ来たんです。」




やはり、升屋と角屋がグルなのは間違いないようだ。


「それで、あの過激派浪士達が升屋を通じて、長州から武器弾薬を京に持ち込み、角屋にそれらを保管していることを知ったんです。」


「それで見つかっちまったわけか…。」


「はい、すみません。」


「いや、それは大手柄だ。」


「え?」


「過激派達が妙なことをして、何かを取り引きしているのを何度か見かけたが、なかなか尻尾を出さなくてな。すぐに角屋を捜索するぞ。総司、斎藤、頼んだぞ。」


土方にの後ろにいた斎藤と沖田の表情が変わる。


月は沖田の方を見るが、沖田はその視線に気づくことなく、斎藤と土方と共にに部屋を出て行った。







ーー翌朝。


まだ、誰もが寝静まっている都の朝。


新撰組一番組と三番組が角屋を目指して歩いて行く。






月は屯所の自分の部屋から身を起こし、障子から差し込む明かりにつられるように、戸を開けて夜明け前の空を仰ぐ。


それと同時に時が動き出す。




ーーードカッ!!



角屋の入口が強引に暴かれ、隊士達がなだれ込む。


その騒ぎを聞き付けた、浪士達が姿を現す。


「新撰組だ!!吉田以下、京の治安を乱そうとしたのは明白!観念して我らに投降するがいい!!」


「新撰組か!」


「お前らに邪魔されてたまるか!!」


「斬れ!斬れ!!」


威勢よく一勢に浪士達が新撰組へと襲いかかる。


そして、角屋は一刻も経たないいうちに、新撰組に制圧されることになる。







升屋にいた浪士達数人と長州に協力していた【古高俊太郎】を討ち取り、古高は重要人物として拷問にかけられることとなった。


拷問は屯所から少し離れた場所にある倉で行われたが、古高の奇声ともいえない叫び声が響き渡った。


月は起きて活動出来るまでに回復していたが、まだ本調子でないため、部屋で過ごすことになっていた。


古高が捕縛されたことにより、長州の思惑が明るみに出るだろう。


そうなれば、その後ろにいる吉田はもちろん、かつては主として仕えていた蛍とも対立することになるかもしれない。


もとから、敵ではあるが、やはり長州出身という肩書き消えない。


まだ見ぬ両親や義兄である史朗の行方も未だ分からず、どんどん故郷への足が遠退いていくのを感じていた。


「こんな所で何をしている。」






縁側に腰かけていた月に斎藤が声をかける。


「斎藤さん。」


「怪我人なら寝ていろ。」


「もう平気です。それより、長州の動きはどうでしたか?何か変わったことはなかったんですか?」


本日の巡察当番は斎藤率いる三番組だ。角屋が襲われ、長州に対する警戒がより一層強まっている。


古高とその一味の捕縛には成功したが、まだ吉田率いる一味が何処かにまだ潜伏しているはずだ。


「特に変わった動きはない。だが、古高が捕まったんだ。近いうちに動きがあるだろう。」


やはり、計画は実行されるようだ。


仲間が捕まってもやるということは、長州は京を占拠しようと考えているのかもしれない。


そう思うとこれからが心配だ。


「斎藤さん、稽古をつけてもらえませんか?」


「病み上がりが何を言う。今は身体を治すのが先だ。傷が癒えぬまま稽古をするわけにはいかん。」


稽古とはいえ、実戦と同じこと。


手を抜いてしまえば、大事に至ることも少なくない。


「……ですよね。」


なんだか気まずい雰囲気になる。


「私、部屋で休みますね。斎藤さんも……きゃあ!」


立ち上がった月の手を斎藤がぐっと引き寄せ、月は斎藤に倒れ込む形で抱き留められる。


一瞬何が起こったか分からなかったが、すぐに斎藤に抱きしめられているのだと理解すると、慌てて離そうとするが、掴まったあとだった。


「斎藤さん……!」


「あんまり無茶をするな。お前に何かあっては、俺の身が持たん。」


月を抱く斎藤の腕に力がこもる。


心配していたことが、分かってしまったのだろうか、困惑する月。


「斎藤さん……!」


困惑する月に優しくそれでいて、何処か緊張したように斎藤が言う。


「総司に足元をすくわれるぞ、と言ったが、まさか俺がその相手になるとは……。」


「え…?」


斎藤が月の両肩をぐっと掴み、向き合う形をとる。


「月、俺はお前を愛している。」


「!」


「お前が総司を好いていることは知っている。だが、俺はお前を愛してしまったのだ。この気持ちを覆すことは出来ん。」


真っすぐと月の瞳を見つめる斎藤。その想いがどれだけ本気なのか、すぐに理解が出きる。


「総司を好いたままでかまわん。俺の女になってくれ。」


「!」


もう一度、強く抱きしめられる。


高く鳴り響く鼓動……。