「俺達は邪魔者ってか!そんな話しがあるか!!」
まるで仲間はずれにされた子供のように、斎藤に怒鳴る二人。
これもすべては二人を守るためであり、土方の命令でもあった。
「これは副長の命令だ。黙って従え。」
「うるせー!!それで、はいそうですか、って納得するとでも思ってんのか!?」
「これはあんた達を守るためだ。だから従え。」
永倉と斎藤が言い合いをしている間に、平助が月に視線を向けた。
「お前も知っていたのか?」
「……はい。」
「なら、屯所で何があるかも知ってるんだろ?」
「…………。」
平助はいつもよりも真剣な眼差しで、月を見てくる。まるで刃物突き付けてくるような、そんな冷たい視線。
それでも言うわけにはいかない。
と、永倉が今度は近藤に詰める。
「いったいこれはどういうことなのか、説明しろよ近藤さん!?」
「………。」
「あんたが今屯所で何があってるのか、知らないはずないだろうが…!」
すごい剣幕でまくし立ててくる永倉。ついに近藤はその重い口を開いた。
「芹沢さんを殺すんだ。」
「!」
「な、なに!?」
「局長・芹沢鴨を暗殺するんだ。これには君達は関わらない方がいいだろうと考え、君達にはあえて伝えなかったんだ。」
「な、なんだよそれ……、なら、俺達が邪魔ってか!?芹沢さんと同門だから、俺達があの人に情けをかけるとでも言うのかよ!?」
「すまん…。」
いらないことは言わずに、二人に頭だけ下げる近藤。
それが本当なのだと、二人は現実を突き付けられる。
「!!」
たまらずに二人は部屋を飛び出して行く。
「永倉さん!平助君!!」
後を追いかけようとした月を近藤と斎藤が止める。
「君は行ったらいかん!!」
「お前はここに残れ。」
「でも……!」
「今、あそこは戦場となっている。おそらく勝つのは土方さん達だ。人の血に染まった死体など、女が見るものではない。新八達は俺が止める。だから、あんたはここに残れ。」
「……!」
それ以上は何も言えず、佇む月。それを見て斎藤は二人の後を追いかけて行った。
月はただ皆が無事であることを祈るしかなかった…………。
一方、屯所ではその時が差し迫っており、土方達がそれぞれの配置について、暗殺の機会を伺っていた。
あと数分もすれば、芹沢達が寝静まって一刻が経つ。
「……そろそろ行くか。」
それぞれ顔を見合わせ、外から土方、山南、沖田、原田、と芹沢の部屋に忍び寄る。
中の気配を伺うと、芹沢は高鼾をかいて、残った者達と気持ち良さそうに眠っていた。
月が混ぜていた薬のおかげで、芹沢も土方達の気配に気づくことはない。
再度それぞれの覚悟を確かめるかのように、土方は周りにいる者達を見た。
そして部屋に一歩足を踏み入れた。
一方、永倉達は土砂降りの中、屯所へ向かって走っていた。
その後ろを斎藤が追いかける。
「ついてくんなよ!!」
「俺はあんた達を止めるという命を受けている。あんた達をこのまま行かせるわけにはいかぬ!」
その言葉に永倉が足を止め、踵を返した。
濡れた地面がバシャと水を弾く。
「そこまでする程、俺達が信用出来ねぇってんのか!?ここまで一緒に戦ってきたんだぞ!?それくらいの覚悟はしてんだよ!!」
「言ったはずだ。これはあんた達を守るためだと。そして、これからも共に戦うために、あんた達を行かせるわけにはいかん。」
「はっ!話しになんねぇな!なら、俺達を力ずくで止めてみせろよ!!」
「俺、先に行くわ!」
「そうはいかん!」
踵を返し走ろうとした平助の首筋に、一本の針が突き刺さり、平助は事切れたかのように地面に倒れ込んだ。
「平助っ!!」
「!」
倒れた平助に一瞬気を取られた永倉の隙を見逃すことなく、斎藤は永倉の首筋に刀の柄を叩き込み、脇腹を峰打った。
「あがっ!…さ、斎藤……!」
歯を食いしばりながら、立ち上がろうとするが、永倉の身体は力が抜け落ち、その場に尻餅をつくようにして倒れた。
「言ったはずだ。俺はあんた達を生かすために、戦うのだ。しばしの間眠れ。」
「くっそ……!」
永倉は倒れた身体を起こすことも出来ずに、その場で意識を失った。
冷たい雨が三人に降り注いでいった。
一方、土方達の芹沢暗殺は無事に決行され、芹沢を含め周りにいた者達も、その執行に巻き添いをくらい、見るに無惨な姿となり、八木邸は血で赤く染まった。
苦しまず逝けたのが、せめてもの幸いだったかもしれない。
翌日には葬儀が執り行われ、幹部以外の隊士達には病死と報告された。
無理矢理取ってつけたような感じであったが、芹沢の悪評は隊士達の間でも有名になっており、病死がせめてもの幸いといった感じで、誰もその死に疑いを持たなかった。
翌週には八木邸で牛詰めにされていた隊士達が移動してきて、八木邸は宿舎として扱われるようになった。
そんな中、総長であった山南が大阪で負傷するという事態が起こり、左腕が麻痺して刀が握れなくなるという後遺症を残してしまった。
一緒にいた土方は自責の念を抱え、山南は隊務から外れるようになってしまう。
月は土方に願い出て、山崎と共にありとあらゆる薬の研究を行うが、以前として後遺症を治す方法は見つからなかった。
そして、また新たな波が新撰組を飲み込もうとしていた。
長年、戦争をし対立を深めていた薩摩藩と長州藩がある時をきっかけに、一線を退き互いの間で会合を開くようになっていた。
どうやら裏で誰かが動いているようだ。
そのため、幕府は薩摩と長州への警戒をするよう会津藩に命令を下した。
そして、それは町を警護する新撰組の耳にも入り、新撰組も昼夜の巡察を強化するようになっていた。
そんなおり、新たな知らせが舞い込んでくる。
「なに!長州の過激派が京に潜伏しているだと!?」
「はい。奴らは長州藩邸の近くの宿屋で頻繁に会合を開いているようです。」
長州の過激派と言えば、長州藩主である高杉や、重役である桂達の下にいる、【吉田麿】率いる浪士集団だ。
今まで何度か密偵として、新撰組から幹部や監察型を送り、その動向を探らせてきたから間違いはない。
「これは厄介な事ですね。今まで長州の高杉一派が押さえて来た奴らが、京まで来たとなると、長州が何らかの企みを持ってる可能性があります。」
「奴らをあえて、野放しにしたってっか?」
「おそらくそういうことでしょう。今まで戦争をしていた薩摩や長州が、互いの藩で会合を開いたりしているのですから、彼ら何らかの目的を持ち、京へ来た可能性があります。」
珍しく顔を出していた山南の言う。
確かにその可能性が高い。だが、その目的は不明である。
京で奴らが動き出す前に、彼らの目的を探り出さなければならない。
「山崎、奴らの潜伏先は何処だ?」
「角屋です。奴らはそこで会合をしており、そこの宿屋の主である【古高】も、過激派に加わっているようです。」
「なるほど、それは奴らには都合のいい隠れ家だな。引き続き、奴らの動向を探れ。」
「はい。」
山崎は引き続き調査をするため、部屋から出て行った。
「……彼らが別の目的のために来たと考えですか?」
山崎が出て行っても難しい顔をしている土方に尋ねる。
「元々、会津と長州は兄弟藩だ。あの一件で長州を怒るのは当然だろ。」
長州はあの一件で会津という利用価値のある藩を失った。
しかも豪族まで巻き込んでいる。それには沖田や月も関わっている。
会津への裏切りで長州が過激派を出した可能性もある。
それはきっかけかもしれないが、どちらにしろ長州の恨みを買ったには他ない。
「確かに、あの一件には高杉の娘も関わっていますしね。」
「どっちにしろ、このまま見過ごすわけにはいかねぇ。なんとかして奴らの目的を暴いてやる。」
恨みを買ったにしろ新撰組は、京を守らなければならないのだ。
後日、土方は幹部達を広間に集め、事の次第を報告する。
「長州の過激派が京に潜伏してるだって!?」
「ああ、奴らの目的が分からない以上、俺達も迂闊に動くわけにはいかねぇが、このまま黙っているわけにもいかねぇ。なんとかそれを知る方法を探ってみた。」
「で、どんな方法を使うんだよ?」
「奴らは近々、宴会を開く。そこで、潜入して奴らの動向を探るんだ。」
監察型を出しても、尻尾を出さないのなら、こちらが動くまでだ。うかうかしていたら、奴らの思う坪だ。
「で、それに誰が行くんだ?」
「月。お前だ。」
「え?」
「ち、ちょっと待てよ、土方さん!月にそんなことさせていいのかよ!?」
「ま、それもそうだな。」
「左之さん!!」
「俺達が角屋に潜入して派手にやったら、それこそ奴らの思う坪だ。それに、月ならやってくれるさ。美人だし、奴らにはバレないだろう。」
幸いにして月は過激派とは面識もなく、芹沢の一件で手柄も立てている。
適任と言えば適任だ。
「……わかりました。私、やります。」
「月!!」
上手く出来る保証はないが、宴会とかなら場慣れをしている。探りを入れるぐらないならお手の物だ。
それに、新撰組の役に立てるのなら、長州を敵に回してもいいと考えていた。
「着物はこの間のを着て行け。まだ使えるだろ?」
「はい。」
「でもさ…。」
平助はなかなか納得がいかないようだ。この前とは違い、今度は遊女としての隠密行動だから、気が気でないのだろう。
「斎藤と総司を護衛役として付けておいてやる。いざとなったら助けてやるから、安心してやって来い。」
「ご心配なく。」
万が一の守りということだ。
本来ならここで沖田が何らかしら、口を挟むところだが、この時に限ってか、目すら月と合わせようとはしない。
完璧に愛想が尽かされたということだ。
もうとっくに諦めたいたことだから、いまさらどってことない。
月が情報収集をし、沖田と斎藤が護衛ということで話しはまとまり、それぞれに動き出す。
月は土方から預かっていた着物を取り出す。綺麗な着物だから、大事に取っておいたのだ。
「それ着るの?」
聞き慣れた声がし、後ろを振り返ると沖田が立っていた。
「沖田さんには関係のないことです。放っておいて下さい。」
月は突き放すように言うと、手元を動かす。
「君、元々は長州の人間でしょ?あんまり、でしゃばると帰る時、困るんじゃない?」
「……私は長州に捨てられた人間ですから、今更どってことありません。」
「ふーん。」
「用がないのなら、出て行って下さい。準備に差し障ります。」
「そんなに男に触られたいかな。」
「私は元は芸妓です。そんなこと沖田さんには関係ありません。」
月は立ち上がり、出入口に立っていた沖田を無視して障子を閉めようとする。
「それ、本気で言ってるの?」
「私は新撰組の一員です。沖田さんの女ではありませんから。」
「なら、なんで目を合わせようとしないの?」
「出て行って下さい!」
尚も沖田と目を合わせようとしない月。
沖田は月の手を掴み、強引に中へ入ると、反対の手で障子を閉め、壁に押し付けてきた。
「……!?」
「それ本気で言ってるの?関係ないって?」
明らかに沖田は怒っている。ついさっきまで無視していたのが嘘のようだ。
「はい、そうです。沖田さんには関係ありません。」
「こういう事態になっても、まだ君は分からないんだね。」
「……。」
「やっぱり酷いのは君の方だよ。」
「ん………!」
沖田は月の顔を正面に向かせ、自分の唇を押し付けてきた。
甘い甘い口づけ。
これが想いの繋がっていた状態ならどんなによかったか…。
たまらずに月は沖田から無理矢理身体を離した。
「もう、こんなことやめて下さい!他の女を抱いたくせに、汚いです!」
こんなふうに他の女を抱いたのだとしたら、悔しくて悲しくて仕方がない。
「君だって他の男の所すぐ行くくせに!」
「!」
「僕だって平気なわけじゃないよ。」
「沖田さん…?」
「もういいよ。早く仕事にもどりな。」
フイッと沖田は月から離れ、部屋を出て行く。
「沖田さん!沖田さん…!」
月は呼び止めるが、沖田は振り返らずに行ってしまった。
関係ないなんて嘘。
本当は振り向いて欲しかっただけなのだ。
そして沖田も…、月への想いでもどかしい想いをしていた。
その後、月は過激派浪士が潜伏しているという角屋に、芸妓として入り込む。
見事なほどに化けていたため、他の芸妓にも気づかれずにすんでいる。
そして、その近くの部屋では斎藤と沖田が待機しているはずだ。
月は他の芸妓と一緒に盆を持ちながら、酒をついで回っていた。
賑やかな宴会会場からの声を聞きながら、沖田達は暗闇の中警戒をし続けていた。
「おう、姉ちゃん、こっちにも酒くれや。」
「へぃ。」
月の声だ。
酔っ払いの相手をしているのだろう。
沖田の刀を持つ手に力が入る。
「……気になるのか?」
沖田の様子に気づいた斎藤が話しかけてきた。
「別に。」
ぶっきらぼうに答える沖田。明らかに気にしている。
「そんなに嫌なら、彼女を止めに行ったらどうだ?」
「何が言いたいの?」
「あいつは女としても、剣客としても、できた女子だということだ。」
以前に足元をすくわれても、仕方がないと言った斎藤の言葉を思い出す。
確かに月は誰もが認める魅力ある女の子だ。
斎藤の言うように本当に足元をすくわれてしまうかもしれない。
だけど、自分のせいで彼女を傷つけているのも事実であり、なおも傷口をえぐっている。
気づいて欲しくて、振り向いて欲しくて、恋しくてたまらない。
だから触れないようにしていたのに…。
月が泣いたあの日、斎藤から言われて、急に月から振られるのが怖くなり、あえて避けていた。
でも、放っておけなくて、月に見つからないように陰から見守っていたのだ。
遊女として潜入すると聞き、居てもたってもいられなかった。
彼女の部屋へ行き、やめるよう言おうとしたのだが、関係ないと言って目も合わせてくれなかったことが辛くて、無理矢理あんなことをしてしまったのだ。
一方で、月は任務を果たすために、浪士達の様子を伺っていた。
すると、運がいいことに、近くの浪士達がボソボソと何か言いあっているのを耳にする。
どうやら、例の目的についてらしい。
月は聞き逃さまいとして、聞き耳を立てていた。
すると、隣に座っていた浪士が、擦り寄って来た。相当飲んでいて、デロデロに酔っている。
「よう、姉ちゃん。色っぽい顔してんな?旦那とかいんのか?」
「い、いえ…。」
あんたに構ってる場合ではないんです!
そう叫びたがったが、そうはいかない。
男と話しをしながら、ちゃんと重要なことは聞き逃さまいとした。
「なら、俺の妾けになるってんのはどうだ?不自由はさせんぞ?」
「いえ、間に合ってますので、結構です。………っ!?」
月の耳にボソボソと話す男達の話しの内容を耳にする。
……にわかに、信じ難い話しだが、情報収集にしては充分だろ。
すると、不意に男が月の肩に手を回し、自分の方へと引き寄せてきた。
「!?」
「遠慮するな!今晩は俺の相手をしてもらおうかな~。」
男はニヤニヤとしながら、月の懐へと手を忍ばせてきた。
「!!」
「ええ身体付きしとるのう~。」
「!?」
胸の膨らみをいやらしく撫で回す男。さらに逆の手で、着物の帯を緩めはじめる。
慌てて周りを見ると、あっちでもこっちでも、そんな雰囲気になってしまい、なやましい声が響く。
いくら月が芸妓でもこれには耐えることが出来ない。
「さあ、俺達もはじめようか?」
男が月に手を回したその瞬間に、近くの部屋でゴトリと物音がした。
「ん?」
男が音に反応する。すかさず、月はその手を払い退ける。
「いやですね~。お隣りのお客様も酔ってるみたいですね。少し様子を見て来ます。」
「あ、ちょっと待て。」
「ではごゆっくり。」
月は立ち上がり、にこりと笑って早足に部屋を出て行く。
月は急いで物音がしたであろう元凶の部屋の前で足を止める。
辺りを確認し、部屋の襖を開けて中へと入る。
中では今にも抜刀しそうな沖田が、斎藤に取り押さえられていた。
「何をやっているんですか?」
月が言うと斎藤を振り払い沖田が、月を睨みつける。
どうやら、物音を立てたのは沖田のようだ。
「すまん。邪魔をしたな。」
月に謝る斎藤。ちょうどよかったから、問題はない。むしろ任務は無事完了である。
「いえ、必要な情報は手に入りました。奴らは、酔っていて注意が逸れているので、逃げ出すなら今のうちだと思います。」
「分かった。俺は先に行って様子を見て来よう。」
斎藤は周りの状況を確認するために、部屋から出て行った。
月も斎藤の後を追うように部屋を出て行こうとする。
「なんで他の男に身体を触らせるの?」
「……?」
沖田はじっと月を睨みつけていた。
「任務だから仕方ありません。」
「任務なら、そんな開けた着物のまま、平気で男の前にも立つんだ。」
「!」
月はようやく自分の姿に気がつく。急いで来たから、着物が開けていたことを忘れていた。
真っ赤になりながら、慌てて胸元を寄り合わせる。
が、その手を沖田から掴まれる。
「そんなに見せたいなら、僕が見ても文句はないよね?」
「!」
沖田の手が懐に入り込み、するり、するりと一枚ずつ着物を脱がしていく。
「沖田さん…。」
だけど不思議と嫌な気はしなかった。
なのに、涙が溢れてこぼれ落ちる。
最後の一枚となると、沖田がその手を止めた。
「泣くぐらいなら、嫌だって言えばいいのに……。」
沖田の身体が微かに震えていた。
「沖田さん……。」
「他の男に、簡単に身体なんか触らせないでよ。」
月の肩に頭を埋める沖田。
もしかしたら、ずっと心配して妬いていたのかもしれない。
斎藤の時も簡単に綺麗な着物を着て、斎藤の女のフリが出来る月。今回だって簡単に遊女になった。
そんな時に決まって、すれ違いが生じていた。
分かってなかったのは月だったのかもしれない。
月は優しく沖田の身体を抱きしめ、頭を撫でた。まるで、沖田の想いに寄り添うかのように……。
そして、二人は宿屋を後にした。
屯所に戻った月は土方に情報収集の詳細を伝える。
「なんだと!?あの姫さんが、過激派浪士に雑ざってるだって?」
「はい。」
かなり言いにくい内容であったが、月はすべてを土方に話した。
どうやら、過激派浪士達は長州の命令で京へ入り込んだらしい。
長州の目的は不明だが、過激派を出したということは、何らかのことを起こすつもりらしい。
そして、その計画は過激派の主導者【吉田麿】そして過激派に宿舎を提供した角屋の主【古高俊太郎】が握っていて、昨夜宴席に出ていた下っ端浪士達は知らせていないらしい。
部下達に知らせてないところをみると、かなり念密組まれた計画のようだ。
そして、なによりその計画の指揮を取るのが、沖田の婚約者でもあった【高杉蛍】だということ。
後の長州を担う者として参戦したらしいが、その意図の詳しいことは分かっていない。
ただ、分かるとするなら、彼女は沖田から裏切られ、信頼をおいていた侍女にまで、刃を向けられたということだ。
沖田は月の報告を聞きながら、黙っていた。
「また、面倒なことになりやがったな。その吉田と古高が計画を握ってんだな?」
「はい。それと…。」
「なんだ?」
「長州には秘密の薬があると聞きました。」
「秘密の薬?」
「はい、何の薬かは分かりませんが、大切な薬だということは間違いありません。」
薬という言葉に山南が反応したが、あえてそれには触れないほうがいいだろう。
山南の腕はまだ治っていないのだ。
「……とりあえず、奴らの動向を探れ、背後に大物がいるとなっちゃ、ただ事じゃないはずだ。必ずボロが出るはずだから、その隙を見逃すんじゃねぇぞ?」
京の町を巻き込み、ひそかに動こうとする長州。
京な治安を守る新撰組にとって、重要かつ大物捕りの予感がしていた。
新撰組はすぐに会津に連絡を取るも、会津藩主【松平容保】は幕府の大名の地位を持ち、本州へと帰還していた。
このご時世だ。藩主が長らく本州を空けとくわけにも行かず、藩主は部下達に京の都を守るよう指示していた。
だが、元々浪士の集まりである新撰組を快くは思わず、報告を受けてもなかなか動く気配はなかった。
と、いうわけで今や新撰組は、独断で情報を掴み、任務にあたるようになっていた。
そして、思わぬ方向へと事態は動き出す。
長州の過激派を束ねることになった蛍は、計画を推し進めるために準備をしていた。
あの時、沖田からかけられた言葉が今でも忘れられない。
ひどく冷たい目をして、蛍に刃を突き付ける。