「もう次期、現れるとのことだ。今のうち心の準備をしておけ。」
「はい。」
「それと、刀は置いていけ。ここでは目立ちすぎる。」
「ですが万一ということが。」
「その時は俺が守ってやるから安心しろ。」
ふっと目を細めて笑う。こういうところは沖田とは違い斎藤の方が大人である。
「はい。」
返事を返すと、廊下の方で声がする。
どうやら芹沢がやって来たようだ。
「よし、行くぞ!」
「はい!」
月と斎藤は任務へと出て行った。
その後、数日間その宿に留まり、芹沢の動向を探った。やはり土方の予想通り、相当の横暴かつ恐喝で、宿の者達を怒鳴り付けては暴れまくり、新撰組の悪評を広めていた。
金の使い方も荒く、土方や近藤が必死に集めていた敷金も、あぶく銭として瞬くまに消えて行き、その言動は二人の想像をはるかに越えるものとなっていた。
もはや、殺されても文句は言えない、情報という情報が出揃った。
後は山崎に伝え、伝令として土方達に伝えるだけとなった。
早速斎藤は月が調べ上げた情報も含め、すべてを書き記し、その文を山崎に渡した。
「まだ、起きていたのか?」
外に出ていた斎藤が部屋に戻って来る。
「あ、お疲れ様です。斎藤さん。」
それまで眺めていた窓を閉めて、斎藤の方へと向き直る。
「夜風にあたっていたのか?」
「はい、少し。」
この数日間、斎藤と一緒に寝泊まりしていたが、斎藤は言葉の通り月を守ってくれ、時には驚く行動もとったりしていたが、その度に距離が縮まっていくのを感じていた。
そして明日はいよいよ屯所へ帰る日だ。
そんな時に限って、沖田のことを思い出してしまうのだ。
「……総司のことが気になるのか?」
「えっ?」
「あんたがそうする時は決まって、総司の事を考えている時だ。この間から、ずっとそうしていただろ。」
やはり斎藤にはバレていたようだ。罰を悪そうにする月。
斎藤は近くに置いてある火鉢を突いていた。
火の粉と共に灰が舞う。
「斎藤さんは恋をしたことがありますか?」
「……ああ。」
一瞬月を見てそう返事をする斎藤。
「えっ!」
少し意外で驚いてしまう。
斎藤は何でもないように火鉢の前に座って、炭を突いていた。
斎藤なら聞いてみても大丈夫かもしれない。

