「きれいごと以前の問題だろが!


タイガのガキには罪がねぇんだよ!


関係ないその子に一生消えない恐怖を植え付けるってのかよ!!」


「お嬢、やめてください」


キョウスケの言葉が聞こえた。


「お前の言ってることはきれいごと以外の何もんでもねぇよ!



この世界は弱肉強食だ。


食うか食われるか。そのどちらかだ!!」


戒も怒鳴り返し


「戒さんも!冷静になってください」


キョウスケがとうとうあたしたちの間に割って入ってきた。


いつかの叔父貴と戒の喧嘩をとりなすように両者の間に入り、あたしの肩、戒の胸にそれぞれ手を置いて


「お二人ともやめてください。ここは病院です」


キョウスケの冷静な声を聞いてクールダウンどころか、ますます頭に血が上った。


いつもはあたしの味方をしてくれるキョウスケが今度は中立の立場を保っている。


「お前だってそう思わないのかよ!キョウスケ!」


怒りの矛先をキョウスケに変えると


「俺は戒さんの意見に賛成です。ただしやるときはカズノリくんのトラウマにならないよううまく計画を立てて…」


「なんだよ、うまく計画って!


今までだって計画したことがうまくいった試しがあるってのか!?


青龍会本部に行く約束も、裏カジノの潜入も、全部全部っ!!



何だかんだトラブル続きで後回しになってるじゃねぇかよ!!




何一つ解決していない!」


あたしが怒鳴ると、キョウスケは唇を引き結んだ。


あたしの言葉は二人を静かにさせるには絶大な効果があったみたいだ。


戒は腕を組んだままあたしを射抜くように見つめていたし、キョウスケは下を向いたままただ床の一点をじっと見つめている。


あたしは前髪を乱暴に掻き揚げた。




何やってんだよあたしたち―――


これじゃスネークを倒すどころじゃないじゃん。


三人の気持ちがすれ違ってバラバラだ。




重苦しい沈黙が個室を満たし、不穏な空気が溢れているように思えた。


その奇妙な空気を打ち破ったのは戒だった。





「ちっ」


戒が大きく舌打ちして






「いいか?虎は何より巨大で獰猛な肉食獣だ」






戒はあたしの額に向かって指をさした。