「いつまでも子供じゃねんだ」


ちょっと拗ねて顔を背けると


「マジで可愛く撮れてるって、ほら。見にくるか?」


叔父貴はスマホをふらふら。


あたしは何の警戒心もなく立ち上がったが、







『行くな、朔羅』






耳元で戒の声が聞こえて、ドキリと胸が強くなりあたしの足取りは止まった。


そう……だった。集音マイクのスイッチは入れっぱなし。


つまりここの会話は戒とキョウスケに筒抜けだ。


それでも…今不自然に止まっちまったら絶対怪しむって。


あたしは結局戒の指示を無視して叔父貴の横に腰掛けた。


「ほら、きれいに撮れてるだろ?」


叔父貴はあたしの背の後ろに腕を回すとケータイを近づけた。


スマホの大きな画面に映ってるきれいな画像は、


大きな薔薇の花びらに顔を近づける自分の姿。半分目を伏せ口元に淡い笑み。


あ…あたしってこんな風に叔父貴の目で映ってるんだ。


自分じゃないみたい。


アングルのせいかそれとも照明のせいか、いつも友達と撮る写真の何倍も“女”の表情をしている。



「機嫌直ったか?」


そう聞かれてあたしはきこちなく頷いた。


「お、思ったよりカメラマンの腕が良かったから」


「被写体のおかげだ」


叔父貴は無邪気に笑い、あたしの肩に手を置いてゆっくりと引き寄せた。


叔父貴の整った美しい顔がすぐ近くに迫っている。


急な接近にあたしはドキリとして思わず


「ぬ…ヌードは撮らせないぜ??」


なんて冗談を返しちまった。


「誰が撮るかよ。



もし見る機会があったのなら、俺はカメラに収めない。



その一瞬は俺だけのもの。




一生記憶に焼き付けて、忘れはしない」





叔父貴は少しだけ眉を下げて、あたしの前髪をそっと撫で梳く。


『この会話、録音してやりたいわ。そしたら龍崎 琢磨の弱みになると思わへん?』


戒の嫌味ったらしい声がイヤホンから聞こえてきて、あたしは思わず苦笑い。


『俺だったらネットに公開します』とあたしを省いて二人で会話してる男ども。


「ま、また冗談??キリさん言ってたぜ?


叔父貴の発言の80%が冗談だって」


話題をそらすためにわざと軽く言って叔父貴から距離を取ろうとするも



「残りの20%だったら?」



叔父貴はソファの背もたれに腕をついて、目だけをあげる。



20%…―――…


それは冗談なんかじゃなくて…?





ドキンと胸の音がして


「構えるなよ。俺はお前と距離を縮めたいだけだ。


お前が何の企みも持ってなかったら、お前が不快に思うことは何もしない。





距離を―――





縮めたいだけなんだ」








すぐ近くに迫った叔父貴は長いまつげを伏せて、こつんとあたしの額に額を合わせる。