「襲ってきたのは男二人。タトゥーとかは確認でけへんかったけど、ヤツらは白へびに雇われた言うてたわ。


それもかなり強い。軍隊出身かもしれへん」


軍隊―――……


そうかも。あの戒が手こずってたぐれぇだし。


ハジキを持っていた理由も頷ける。


「その後、白へびが口封じに殺したに違いないよ!


け、警察に行ったほうがいいんじゃないか!」


正直あたしゃサツなんて大嫌いだが、四の五の言ってられねぇし。


それに…


殺人現場を目の前で目撃しちゃったんだよ!


「サツに垂れ込んでも、凶器もないし死体もない、その状況では真剣に取り合ってくれませんよ」


キョウスケが淡々と言い、


そ、それもそうか、と納得。


「お前は信じてくれるんだな…白へびが現れたこと。男に襲われたこと」


キョウスケを見上げると、


「お嬢一人なら夢を見たと思うんですけど、戒さんも一緒なら」


おい!キョウスケっ


あたし一人じゃ信用ならねぇって言いてぇんか!


「…ってー、あいつら派手にやりやがって」


戒は男の攻撃で打ったわき腹を押さえて、キョウスケからハンカチを受け取ると、カットソーをめくり上げてその場にそっと当てる。


戒の引き締まったわき腹には、確かに男が攻撃したと思われるあざが生々しく残っていた。


夢―――……なんかじゃないよ。


あたしもバカぢからの男に首を絞められた。


あたしは絞められた場所をそっと手で押さえて、今更ながら青くなった。


一瞬の判断が誤ってたら今頃本当の天国にいってたかも。


戒は痛みに顔をしかめながらもよろよろと立ち上がり、ご本堂の入り口をきょろきょろ。


「空薬きょうもねぇ。後始末も周到だな。


間違いねぇな、プロの仕業や」


はぁ


戒は大きくため息を吐いてご本堂の石段に腰掛ける。


“後始末”ってところに嫌なものを感じて、あたしは心臓の辺りをぎゅっと押さえた。


「で、でもさ!あたしたちが生きてるってことは、男たちも生きてるってことじゃね?


きっと自分たちで立って帰っていったんだよ!」


どんな事情であれ、目の前で人が殺された―――


その事実を認めたくなかったのかもしれない。


だが、逃避したいあたしの目の前で戒はどこまでも現実的。


「それはねぇな」


あたしの意見をきっぱりと否定した。