掴まれた肩が熱を持ったように熱い。


あたしが体温高いってドクターは言ったけど、鴇田の方が熱あるんじゃない?


そんなことを思いながらも…


振りほどきたいのに、振りほどけない。


何よ…


あたしに触らないでよ…



あの人に触れた手で、ママの血が流れてるあたしに




触 ら な い で





あたしは鴇田の手を振りほどいた。


それは思ったよりも簡単にあっけなく……鴇田の手はあっさりと離れていった。


「何でここに居るのよ。


あの人一人にしていいの?」


あたしはレストランの窓を目配せ。窓の向こう側でキリさんが一人不安そうにあたしたちを眺めている。


「バカみたい。


今更父親面して…紹介なんて。


知らなかった。あんた家族ごっこが趣味だっけ?



ご丁寧に“俺の娘だ”なんて紹介して、



ホントはあたしのことお荷物だと思ってるくせに!」


「違う」


鴇田はそっけなく言ってあたしの手を引こうとする。あたしはその手を乱暴に払った。


「ああ、そっか。あんたは体裁を気にしてるのね。


はじめての結婚だから。


一応紹介しとかなきゃあとでバレたら逃げられるかも、だし?」


「違う」


またも言われて鴇田にまたも手首を掴まれる。


ああ…デジャヴ…


鴇田のこの話し方…どこかで聞いたと思ったら、




響輔のリズムとよく似ているんだ。





「イチ、とりあえず中に入るぞ。お前酔ってるんだ」


「離してよ!あたしは酔ってなんかない!」







パパ






あたしの名前は“イチ”じゃないのよ。



あたしには“一結”って名前があるの。



ママがつけてくれた大切な名前。





あたしの名前をちゃんと呼んでくれるのはこの世でたった一人…





響輔―――







「イ…




一結―――――!!!」





バッシャーーン!!





鴇田の声と水しぶきが同じタイミングで聞こえて、あたしはパパが名前を呼んでくれたってのに


その声を


ちゃんと聞き取れなかった。