「もっと弟と距離をつめるべきじゃないですか?


あなた方は親子だと言うのに妙にぎくしゃくしてる」


ドクターが一歩近づくとあたしの頬をそっと手で包んだ。


冷たい手―――…だった。


「何それ、カウンセリングのつもり?あんたいつから精神科医に転向したの。


てか、近いわよ」


嫌味ったらしく言って離れようとするとドクターがあたしの手を掴んで引き止めた。


「何なのよ!」


苛立って手を振りほどこうとするも、ドクターの手は意外にも力強く、いつになく真剣な顔で表情を読み取るように覗き込まれた。


「私はカウンセラーではなくただの内科医ですよ。


イっちゃん、顔色が悪いよ。


体温もいつもより1℃5分ほど高い。食欲もないみたいだし、



風邪かい?」



風邪―――…?


「そんなんじゃないわ。ちょっと寝不足なだけ」


「寝不足…それはいけない。ちゃんと食べてるのかい?


女優さんは大変な職業かもしれないけど、疲れてるときこそちゃんと食べた方がいい」


「医者らしい意見どうも。てかお節介よ」


今度こそ振り払うと、


「医者“らしい”じゃなくて医者なんですがね」とドクターは苦笑を浮かべる。


「白衣を着てなきゃただの変態よ。セクハラで訴えてやる。


訴えられたくなきゃついてこないで」


ビシっと指差すと、ドクターは軽く両手を挙げて降参ポーズ。


何よ…


ドクターと言い、鴇田と言い、


兄弟揃って何なのよ!


あたしがくるりと背を向けると


「イっちゃん」


ドクターがしつこく声を掛けてくる。


「何?」


不機嫌そうに振り返ると、





「これは医者としてじゃなく、君の“伯父”としてアドバイスだ。


父親とちゃんと話した方がいい。




今の君の気持ちを正直に―――」





ドクターの言葉が妙に苛々を刺激した。


「分かった口利いてるんじゃないわよ!」


思わず怒鳴ると、ドクターは苦笑いで


「そんなに怒らないでください。ほんのアドバイスなので」


と、これまた神経を逆なでするような発言。


握った拳が…爪が手のひらに食い込んで痛い。





「あんた、どこまで無神経なの。




あたしには関係ないんだから!あいつが誰と結婚しようと



あたしには意味がないんだから」






そう怒鳴ると、


「イチ!」


背後から肩を掴まれ振り返ると、いつの間にかそこに鴇田が立っていた。