その後は酒の力もあってか新妻紹介の食事会は特にこれと言った問題もなく淡々と過ぎた。


キリさんも鴇田も…ついでにドクターもマナーは完璧だし。


でも会話は変。


「イっちゃんはリカ派でもなくジェニー派でもなくバービーも好きじゃないと言うんですよ。


キリさんはどう思われます?」


「さぁ。わたくしも幼いころ人形遊びした覚えがありませんので。


でも妹とおままごとをした覚えはあります」


キリさんとドクターは笑い声をあげて楽しそうに喋っている。


てかあたしの話題を出さないでよ。


あたしは人形遊びなんてしないわよ。


鴇田はフォアグラのポワレをナイフで切っていた手を止めて


「キリ…お前妹もいたのか?」


と驚いたように目を開く。


「ええ……あなたに言わなかったのは…妹は亡くなってるから…」


「それは失礼。私が変な話題を出したから」


ドクターはさも心苦しそうに水の入ったグラスを置き、


「いいえ。おめでたい席なのに暗い話もいけませんね。


イっちゃん、フォークが止まってるけれどもうお腹いっぱい?」


とキリさんが話題を変えるようにあたしに話題を振ってきた。


鴇田とドクターが同時にあたしを見てきて


「食欲がないの」


あたしは正直に言ってナイフとフォークを置くと、ワイングラスを手に取った。


「お前、ろくに食わずにワインばかり飲んでると酔うぞ」


鴇田が咎めるように言って


「だってこのワインおいしいんだもの。さすがキリさんのチョイスね」


あたしは女優の笑顔でキリさんに笑いかけた。


確かにおいしかったけれど、でもキリさんのおかげだとは思ってない。


キリさんも気を良くしたのか


「では帰りにお土産に包んでもらいましょうか」と笑顔で提案してくる。


それからまたキリさんとドクターの会話になり、あたしはワイングラスに口を付けながら広くてきれいな店内を見渡した。


上品で変ったデザインのシャンデリアが、店内をいやらしくない程度で照らし出している。


食事をしている多くの客がカップルに思えた。


恋人同士、夫婦―――


ドレスコードのお店だから、みんなオシャレをしてそれぞれ楽しそうに食事を繰り出していた。


その中央にあたしと響輔の姿を思い浮かべる。




―――明るい色のワンピースを着たあたしと、こないだ見たスーツ姿の響輔。




何想像してんの……ホント…今日のあたしないわ。


あたしは飲んでいたワインをテーブルに置いた。