「やぁお待たせ」


ドクターが登場した。


仕事帰りなのだろうか、スーツ姿だった。


「遅い」と鴇田が不機嫌そうに一言。


「両手に美しい花でいいじゃないですか、フフッ」


とあたしとキリさんに同意を求めながら空いた席へ座る。


「実を言うと三十分も前に到着してしまいして、少し待ってはいたんですが仕事の電話が入りこの時間になってしまいました。


申し訳ございません」


ドクターは丁寧に謝りあたしとキリさんを眺める。


「衛、この人が妻になる人……朝霧だ」


鴇田が紹介して


「はじめまして。キリとお呼びくださいませ、お義兄さま」


キリさんはあたしのときと同じように手を差し伸べた。するとドクターは握手することはなく代わりにキリさんの手をとり手の甲にキス。


き、キザぁ……


てかあんたこんなことできるのね。変態なくせして。


死体相手に練習でもしてきた??


「はじめまして。鴇田 衛です」


キリさんは手にキスされたことをあまり深く考えてないのか慣れた様子で微笑みを浮かべ、でもその笑みを途中で固まらせた。


「…あの…どちらかでお会いしました?」


「いえ、お目に掛かるのは初めてですよ」


ドクターが不思議そうに首を傾げ、でもすぐに


「生まれてはじめて逆ナンパと言うものをされてしまいました。フフっ」とあたしにボソッ。


「バカじゃない?単なる社交辞令よ」


「こいつはこう見えて御園医院の内科医だ。お前も行ったことあるだろ?


そこで見かけたんじゃないか?」


と鴇田は気にしてない様子だったがキリさんの方はまだ考えているように首をかしげている。


「私もこんな美人一度見たら忘れないと思いますが。


何せイっちゃんと言い、龍崎組のお嬢さんと言い、きれいどころが多いから


もしかしたらお会いしてるかもしれませんね」



ドクターは歯の浮くような台詞をつらつら述べて、



どーした、あんた!もしかしてもう一杯やってきたの??


とあたしの方が心配になってきた。