ケンジは皆が困ってないか、隅々までしっかり見るように務めた。
しかし今日は、公園の入口が気になって仕方なかった。

(あの娘、今日はまだ通ってないよな。)

一周しては公園の入口を見て、もう一周しては入口を見て、と何度もそれを繰り返した。

(普段ならとっくに見かけてるのに、今日はどうしたんだろう?)
ケンジはいつも公園の外からこちらを見ている、目の大きな女子に思いを馳せた。

最悪の出会いだったが、ケンジの頭の中では、その娘が何度も自動再生された。


「なぁ、シン。いつも向こうでこっちを見てる娘さ、今日通ったの見た?」
「いや、見てない。」
意表を突かれた様にシンは答えた。

「え?何?知り合いか何か?」
シンがにやけているのが分かった。
もう何年も友達をやっているシンは、ケンジがいつもと何か違うのに気づいた。
ちょっとした口調の変化や、表情の違でも、シンは鋭くキャッチできるのだ。

これ以上ケンジは、シンとこの話題を続けたくはなかったが、仕方なく答えた。

「知り合いではない。」
更に素っ気なく言った。

「知り合いではない。」
シンはケンジの真似をして言った。
「じゃあ、何なの?ケンちゃ~ん。」
シンはケンジの口から女子の女の字も聞いた事がなかった。
ケンジはぶっちゃけモテるタイプだけど、シンが相談を受けた事はなかった。
と言うのも、ケンジは中学の頃から人並みに彼女が何人かいたが、決して悩んだり、追いかけたり、気にしたりしない男だった。
”情熱を傾けているのは、スティールドラムだけ”、そうシンは思っていた。
だからシンは、この時初めてケンジが女子を意識している様を見たのだ。

「見てないならいい。」
ケンジはそう言ってシンに背中を見せると、団員のみんなに、
「そろそろ合わせようか!」
と言った。