ケンジの家には防音室があったが、人数が増えてくると、とうとう収容しきれなくなった。ケンジはシンとあちこち見てまわって、やっと桜ケ丘公園を見つける事ができたのだ。
来月、この、"The Pound Band"は創設一周年を迎える。
ケンジも実は、一周年にはどこかで演奏会をしたいと考えていたが、現状それは難しかった。
しかし、メンバーは見た目、高校、年齢も様々だったが、陽気で前向きな奴らばっかりだったので、不可能も可能できるのではないか、と最近ケンジも考え始めていた。

*******************
しばらくして、続々と人が集まってきた。
12人位集まったところで、ケンジは、
「じゃぁ、パート別に分かれて自主練しようか。」
と言った。きゃっきゃと女子達は輪になって自分の楽器を移した。
ケンジとシンは、指導とまではいかないが、アドバイスして回った。

「ケンジ、こっち来てくれる?」
さっきのショートボブの女子が呼んだ。

「何?」
ケンジは素っ気なく答えた。

「ここなんだけど、うまく打てないんだよね。」
女子はコピーした譜面の右端辺りの、蛍光ペンでマークした部分を指さした。

「ここかぁ。」
ケンジの顔が女子の顔に近づいた。
女子は顔を赤らめて、視線を楽譜に移した。

「ここは、慎重に打った方がいいな~、あまり早く打つ練習はしなくていいよ。まずは、ゆっくり正確に打てるように練習してみて。」
ケンジは丁寧に答えた。

「ありがとう。」
女子はまだ頬を赤く染めていた。
ケンジはその娘が練習をはじめると、今度は先月入団したばかりの小柄な男子の所へ行った。