ケンジがスティールドラムを始めたのは、中学生の時だった。
何気なく見ていたTV番組で、それは取り上げられていた。
外国人が陽気にその楽器を演奏していたのを、今でも覚えている。

ドラム缶を上手に凹ませて、その楽器は作られていた。
その自由なスタイルに、ケンジは強く引き付けられたのだ。

(やってみたいな。)

そんな単純な発想から、独学でここまで来たのだ。

とは言っても、その当時はまだメジャーではなかったこの楽器を手にいれるのには骨が折れた。近所の楽器屋には当然なく、インターネットで検索しても、当時のケンジはまだ中学生で、警戒心から購入する事はできなかった。
見かねた父が結局、中学2年生の誕生日に、プレゼントしてくれたのだ。

父は音楽関係の仕事をしていたので、簡単に手に入れる事ができたらしい。
しかし、ケンジの父は簡単に手を貸してくれる程、甘い父親ではなく、”まず自分で何とかやってみる。”それでもできない場合は、手を差し伸べる。そんなスタンスで子育てをしていたので、ケンジは小さい頃から自分で解決をするトレーニングをさせられてきたのだ。
ケンジの決断力と行動力は、この父によって培われてきたのだ。

スティールドラムを学べば学ぶほど、その面白さにケンジはハマっていった。
ファン♪と初めて音を鳴らした時、身震いがした。

1930年、現在のトリニダードトバゴで、スティールドラムは誕生した。ウィンストン・スープリー・サイモンと言う人は、空き缶を打って、鳴らした時の凹み具合で音が違う事に気づいた。サイモンはこの空き缶に音階を付ける、と言う事を思いついたのだ。
ケンジはサイモンを天才だと思った。

父のつてで楽譜もいくつか入手した。

いつしか一人ではなく、大勢でやってみたいという衝動にかられ、まず、同じクラスのシンを誘った。
残念ながら、シン以外に賛同してくれる人がいなかったので、高校生になった時に、
ケンジのPCからフリー掲示板にアクセスして、”スティールドラム一緒にやりませんか?”と呼びかけ、現在の人数に増やす事ができたのだ。

楽器はすべてケンジの父が用意してくれた。

父はこういった事にはとても協力的だったのだ。