家族に電話でその事情を話すと、病院に家族が駆けつけてくれたが、稲葉先生の手術が終わるまでは稲葉先生と一緒にいたいと言うと、許してくれた。

学校にも連絡を入れた。

稲葉先生の手術が終わったのは午前2時を少し過ぎた頃だった。

先生が病室に運び込まれると、私はその病室の中にあった椅子に腰掛けた。

先生の頭部に巻かれた包帯は痛々しい。


「先生・・・私を送ってくれたせいで・・ごめんなさい・・・・・。」

私は深夜の病院に泣いているのが気づかれないよう、声を押し殺して泣いた。



私は泣き疲れたのか知らないうちに寝ていたらしい。

起きたのは午前6時より少し前だった。

「稲葉先生・・・・・ごめんなさい。」


私は先生の手を取って握った。

すると私が持った稲葉先生の右手が私の手を握り返した。


驚いて稲葉先生の顔を覗くと先生の瞼がゆっくり開き、稲葉先生の両目が私の姿を捉えた。


「・・悠宇翔・・・・?」

今まで早月と呼んでいたのにいきなり名前の呼び捨てで呼ばれて動揺するが、しっかりと稲葉先生の顔を見た。

「先生、悠宇翔ですよ。わかりますか?」

「ああ・・わかる。」

「もう大丈夫ですか?まだ痛みますかね。」


「まだ少し痛むが大丈夫だ。それより早月、学校には・・・」

「学校には事故のことも伝えてあります。きっと石神教頭先生がどうにかしてくれるでしょう。」

「ああ・・それなら安心だ・・。」